【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

光学は中核になる人間の技術力をどう上げるかが鍵株式会社ユーカリ光学研究所 代表取締役 油 大作

板橋区は地場産業再興に力を入れている

:まだカメラが売れているとき,そういう物を作って量産して売るのは,バイヤーという職種の人がいまして,片言の英語ができると仕事ができたのです。バイヤーに対する接点は,片言英語が喋れる人が1人と,アパートの4畳半に机と電話1本あると,もう仕事ができるのですね。もう少し正確に言うと,電話とテレックス1台です。今はテレックスをご存知ない方が多いですが,それがあると通信できて,輸出ができるわけです。それで,1人で全部やってしまいますから,外注から皆やって,組立工をやる下請けさんも皆分業化されているのです。特にそういう分業化は,板橋が一番多かったのです。大手の光学メーカーがいっぱいありましたから,それの下請けがたくさんありました。
 下請けがどうしてそんなに多くなったかというと,もちろん大手に対する下請けという位置付けもあったでしょうけれども,それ以上に,ちょうど労働組合運動が盛んになってきていまして,企業が残業をさせようとしても,組合が皆ブレーキを掛けてしまって残業できないのですね。長年働いて,40歳を過ぎたぐらいの一番働き盛りの職人に肩叩きをしまして,全部自分が使っていた機械を,それをほとんどただ同然で払い下げてしまったのです。それで,皆は家の庭に研磨機とか旋盤1台持ってきて,プレハブの掘立小屋を建てて,その中で仕事をやるようになりました。仕事も図面も皆会社から持ってきてやらせてくれますから,歩合制などというものではないですよ。1台作ると幾らで会社へ収められるわけですから,それは夜通し徹夜してもやるわけで,それで下請けがどんどん広がっていったわけです。最盛期には,光学関係の下請けだけで,板橋の中に4,000社あると言われたのですよ。皆腕は一人前だし能率が良くて,しかも間接費がゼロで安いですからね。板橋区の地場産業と言えば光学が筆頭ですけど,ほかには凸版印刷の本社がありますから印刷ですね。それから,プラスチック,化学薬品,これは板橋区が全国でも1位,2位です。下請けで板橋区が成り立っていたのが,今どんどん海外に生産拠点を進出させてしまっていますからね。現在は下請けを全部集めても,4,000~5,000社と言われていて,光学の下請けは数百社で,1,000社はない状況です。
 板橋区の今の区長は,若いけれどなかなかしっかりした方ですので,地場産業を再興させるにはどうしたらいいかと,後継者不足の問題も含めて考えています。それを,区長が何とかして盛り立てていこうではないかと,そういう所を改善して戦略的にやろうと,今「板橋戦略会議」をやっています。
 少ない予算ですから,現在は,光学に集中的に投資して,ほかの産業より先に光学を伸ばしてやるということです。それによって,ほかにも影響を及ぼせるようにしていく戦略です。私も,その戦略会議の委員に入って,盛んに意見を出してやっているので,非常に見込みが良くなってきました。
 ですから,2015年に日本光学会が法人化するときには,板橋区役所の中に日本光学会の事務局も全部置いて,事務も人間も区役所がやって,学会としては助かりますよね。日本光学会の封筒には,必ず「板橋区」というのが入ってくるようにしていますが,それも作戦なのですよ。光学会が光設計研究グループとかで何かをやる際には,板橋区の建物の枠を優先的に取って使わせてくれます。定例研究会を,ほとんど板橋区でやってきて,板橋との接点を多くしようと盛んにやっているのですね。非常にいい動きだと思っています。

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油 大

油 大作(あぶら・だいさく)

1936年 石川県出身
1959年 金沢大学理学部物理学科卒業
1959年 (株)三協精機製作所入社
1964年 (株)保谷硝子入社
1967年 東京光学機械(株)入社
1980年 (株)ユーカリ光学研究所を設立

●(株)ユーカリ光学研究所について
(株)ユーカリ光学研究所は1980年創業。光学機器の試作開発会社として,35年の長きにわたり,カメラ,望遠鏡,顕微鏡,赤外線,紫外線,可視光線と,用途や大きさの大小にかかわらず,さまざまな試作・開発に携わった経験をいかし,専業メーカにはない独自のノウハウを保有している。本質は光学専門のコンサルティングとしているが,商品開発から設計,試作まで自社一貫作業が可能であり,凸レンズ1枚から衛星搭載用光学装置まで対応可能な「受託開発」をはじめ,「試作サービス」「測定サービス」「設計サービス」のほか光学技術,開発コンサルティングや光学技術者受託教育も可能な「出張セミナー」など多彩なサービスを提供している。
webサイト http://yucaly.com/

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