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蓄電池発火の画像診断~安全な次世代蓄電池の普及に向けて~神戸大学 数理・データサイエンスセンター/株式会社Integral Geometry Science 木村 建次郎

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 発電された再生エネルギーの蓄電用途やモバイル電子機器の電力源として,リチウムイオン蓄電池の普及は著しい。蓄電池は出荷前の安全性検査としてエージング試験が行われているが,これらの検査をパスした良品セルの発火事故が多発している。そのため,現状の安全性検査をパスする危険な良品セルを“不良品”としてふるい落とすことが可能な,高度な良否判別手法の普及が強く求められている。
 蓄電池の製造法上発生する根幹的課題として,正極・負極間の電流の空間的な不均一性,自己放電がある。われわれが開発した蓄電池内部の電流密度分布の非破壊映像化システムは,電流が流れる際に周囲に発生する磁場の空間分布を測定することにより,セル内部の電流密度分布を再構成,非破壊映像化する。本技術における根幹をなす基礎理論は,われわれが世界で初めて導くことに成功した,磁場の空間分布の計測データから蓄電池内部の電流密度分布を導く“逆問題の解析解に基づく画像再構成理論”である1)~3)。本理論に基づいて行われる非破壊検査では,計測時に加える電流が実用の水準より大幅に低く,製品への影響が少ないため,電流密度分布の観点から良品と判定された蓄電池はそのまま出荷することが可能である。
 すでに電流密度分布非破壊映像化システムの販売や受託検査サービスを通して,多くの車載蓄電池メーカーの故障箇所解析や良否判定に貢献してきた。図1の測定結果ではラミネートセル内部の自己放電箇所が赤く表示されており,サイクル劣化と対応している。さらに,充放電サイクル劣化に伴う導電率分布異常の可視化(図2),モバイルデバイス用セルや車載用セルにおける劣化箇所の映像化も可能である(図3)。
 今後はインライン検査システムとしての普及が非常に重要と考えている。この電流密度分布可視化技術による次世代品質管理システムが安全性検査として導入されれば,電流密度の空間分布という新たな観点から,より高いレベルでの安全が保障された蓄電池が流通することとなる。また,2020年度から電子機器用蓄電池や家庭用蓄電池の検査依頼等も増加していることを踏まえ,今後蓄電池の多様な用途に合わせて,様々な電池,リサイクル電池に対応することが可能なシステムの普及を推進する。

参考文献
1)S. Suzuki, H. Okada, K. Yabumoto, S. Matsuda, Y. Mima, N. Kimura, and K. Kimura: “Non-destructive visualization of short circuits in lithium-ion batteries by a magnetic field imaging system”, Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 60, No. 5, 056502(2021)
2)S. Matsuda, S. Suzuki, K. Yabumoto, H. Okada, Y. Mima, N. Kimura, K. Kimura: “Real-time Imaging of the Electric Conductivity Distribution inside a Rechargeable Battery Cell”, Electrochemistry, Vol. 89, No. 5, pp. 420-426(2021)
3)K. Kimura, Y. Mima, N. Kimura: “Local electric current reconstruction theory for nondestructive inspection inside battery cell using magnetic field measurement”, Subsurface Imaging Science & Technology, Vol. 1, No. 1, pp.1-16(2017)

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