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「スペクトル超解像」による分光分析の高精度化名古屋大学 未来材料・システム研究所 原田 俊太

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 分光分析は,半導体,バイオ,医療,化学など,さまざまな分野において,研究開発,製品検査などに用いられている。分光分析では,プリズムや回折格子などによって各波長成分に分光した分析光を,多数のCCD検出器によって成分ごとに一度に検出するため,測定データは離散的であり,CCD検出器の数以上にデータ点を増やすことができない。このため,ピーク位置の精密な決定や,ピーク形状の精密な解析が必要な場合に,データの解像度が不足する場合がある。例えば,ラマン散乱によって半導体中の応力や,電子濃度を評価する場合,データ間隔1 cm-1のデータからフィッティングなどによって0.1 cm-1以下の精度でピーク位置を決定する必要があるが,測定データは必ずしも理想的なピーク形状をしていないため,系統的な誤差が生じることが懸念される。このような理想と現実の乖離は,ラマン散乱の解析だけでなく,あらゆる分光データの解析において,研究者が多かれ少なかれ気づいていながら,「どうしようもない」と,見て見ぬふりをされてきた場合もあるのではないかと推察される。
 そこで,私たちは,平行移動を含む複数の画像データから,高解像度の画像を再構築するベイズ超解像のアルゴリズムをスペクトルデータに応用し,スペクトルピークの位置や形状を詳細に解析する「スペクトル超解像」技術(図1)の研究に着手をした。これまでに,精度を担保して超解像を実施する手法を確立し,ラマン散乱スペクトルのデータ解像度を約100倍向上させ,スペクトルピークの位置を高精度に決定できることが明らかになっている1)。「スペクトル超解像」は,ラマン分光測定だけでなく,そのほかの分光分析や電気信号の解析にも応用が可能であり,現在,電子エネルギー損失分光法(EELS)やX線光電子分光(XPS)などへの応用研究を進めている(図2左)。「スペクトル超解像」を既存の高性能装置に応用することで,これまでには捉えることができなかったわずかなピーク位置の変化や,ピーク形状の詳細が解明されることが期待される。また,簡易,小型の装置に応用することによって,製品検査の精度向上にも寄与することが期待される(図2右)。
 「スペクトル超解像」は,分光分析や電気信号などさまざまな波形データの解析に応用できる可能性があると,私たちは考えています。読者の皆様も,スペクトルデータの解析を行っているときに,「フィッティングとずれているけど大丈夫かな?」とか,「もっと細かく見ていくとどうなっているのだろうか?」など素朴な疑問をもたれたときには,ぜひ,この記事を思い出していただき,技術紹介のwebサイト2)を参照していただけますと幸いです。

参考文献
1)K. Tsujimori, J. Hirotani, and S. Harada: “Application of Bayesian Super-Resolution to Spectroscopic Data for Precise Characterization of Spectral Peak Shape”, J. Electron. Mater., Vol. 51, pp. 712-717(2022)
https://link.springer.com/article/10.1007/s11664-021-09326-4 2)「スペクトル超解像」 https://spectralsr.com/

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