光学は中核になる人間の技術力をどう上げるかが鍵株式会社ユーカリ光学研究所 代表取締役 油 大作
レンズ設計は何十年やっても面白い仕事
聞き手:光学分野の若手技術者や学生などに向けて,光学分野の面白さやメッセージをお願いします。油:技能というのは,ものすごくいろんな意味でつながってきているわけでしょう。ひとつでも切れたら,突然変異を待たなければいけないぐらいでしょう。私は,物理にちょっとでも足を踏み込んだ人間として,物理現象というのは,すべからく連続だと思っています。突然変曲点みたいになっていると思われているけども,もっとミクロに見たら,つながっていると思います。連続しているということは,過去の動きの延長上に先が行くわけですから,非常に予測が立てやすいのです。レンズ設計は,ものすごく無数の変数があって,それぞれ勝手に動いていった組み合わせによって新しい能力をつくるというのが,根本なのです。
そして,手探りなりにある程度予測を付けるやり方の手段のひとつが,収差論です。収差論というのは,たとえば砂漠の中に小さな山がたくさんあるとすると,山のてっぺんを探すのが,解を求めることになるのですが,てっぺんというのはいっぱいあります。てっぺんの中で一番高い山を探すのはどうしたらいいかというのが,レンズ設計なのです。今は小さな山のてっぺんを探すのは,計算機を使えば簡単に自動的にポンと瞬間的にいってしまうのですね。ところが,その中の一番高い所のピークを踏破するには,富士山が一番高かったら,富士山の麓へ行って,頂上はどこかなと探せば届くのですけども,その辺の筑波山の麓へ行って一番高い所といっても,筑波山の頂上以上には行けないわけですよ。そして,それを予測するために,「直観力」が必要だと言うのです。直観力は,動物的な本能みたいなものとよく誤解されがちですが,決してそうではなくて,トレーニングによって磨かれるものだと思います。収差論という理論で,この近くにあるはずだと,だんだん周りから固めて幅を狭めていくという追い込み方をしていくわけですよ。
2番目は,その連続現象で,必ず今までの過去の現象を探していくと,その先に同じような経路をたどるので,その先の予測が付きやすいのです。作図化する,あるいは図形化することによって,作業が非常にやりやすくなります。これが直観力を増す1つのツールだと思います。
3番目に,レンズ設計は,全体を見なければいけないです。全体を見るためには,近軸的に入った後に細かい所に目線を置いて拡大して見るのです。どこかに高い山がありそうだからと,最初にもっと粗くラフに見て,だんだん次元を上げて,細かい所を探していくという手法が必要なのです。光学設計には近軸領域というのがあって,そこは細かいことを抜きにして変化のカーブで見通そうということです。これができるかできないかというのは,違いがあるのですよ。だから,レンズ設計というのは,やっぱり何十年やっても飽きが来ないというか,面白い仕事だと思います。
油 大作(あぶら・だいさく)
1936年 石川県出身1959年 金沢大学理学部物理学科卒業
1959年 (株)三協精機製作所入社
1964年 (株)保谷硝子入社
1967年 東京光学機械(株)入社
1980年 (株)ユーカリ光学研究所を設立
●(株)ユーカリ光学研究所について
(株)ユーカリ光学研究所は1980年創業。光学機器の試作開発会社として,35年の長きにわたり,カメラ,望遠鏡,顕微鏡,赤外線,紫外線,可視光線と,用途や大きさの大小にかかわらず,さまざまな試作・開発に携わった経験をいかし,専業メーカにはない独自のノウハウを保有している。本質は光学専門のコンサルティングとしているが,商品開発から設計,試作まで自社一貫作業が可能であり,凸レンズ1枚から衛星搭載用光学装置まで対応可能な「受託開発」をはじめ,「試作サービス」「測定サービス」「設計サービス」のほか光学技術,開発コンサルティングや光学技術者受託教育も可能な「出張セミナー」など多彩なサービスを提供している。
webサイト http://yucaly.com/