【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

光学は中核になる人間の技術力をどう上げるかが鍵株式会社ユーカリ光学研究所 代表取締役 油 大作

工業高専の年代の人間の「受け皿」が必要

:私が特に声を大にして言っているのは,物づくりというプロセスで,一番は何ですかというと,設計なのですよ。だから,設計が良くなくては,後は苦労するだけなのですよ。後の物づくりをハンマーでカンカンやっている人が苦労しているのは,設計が悪いからです。普通のパートのおばさんでも物ができるような設計が,一番いいはずなのですよね。ですから,設計にもっと注力化すべきだということを言っています。
 でも,設計屋だって,紙と机だけでは勉強できないのですね。やっぱり物をつくる現場にいるからこそできるのであって,そういう環境をつくらなければいけないのですよ。なかなかそこは行政に頼っていただけでは,うまくいかないので。それこそ今までの光学の業界は,先端だけを追っていたのですけれども,後ろに続くようにするにはどうするかというのは,中小企業の1人や2人で頑張ったところで,しょせん手の打ちようがないので,全員で何か考えていくしかないのです。
 うまい具合に,今,中国のダウンでUターン現象が起きてきて,一部それで救われ始めていますね。だから,お年寄りでもう廃業しようかなと思っているときに,プリズムの精度が中国ではとても出せないというので,またこっちに戻ってきたとか。アップルも向こうでは信頼度がないから作っていられないというので,日本に持ってきたというUターン現象が起きています。それが,これからしばらく続くと思っています。けれども,そのための人材の受け皿がないといけないです。だから,18~19歳の辺りが,一番いいですよね。「これが今の子供たち」と思うぐらい真剣に勉強していますしね。人材はいいという気がするのですよ。
 また,私は台湾のメレスグリオという大手と仕事をしていたとき,その工場に1回打ち合わせか何かで行ったのですね。アメリカの技術でつくった,50~60人が現場にいるぐらいの小さな工場ですよ。ですが,そこで光学研磨のニュートン盤を磨くと,ワンカラーといって,一番レベルの高い面を出すわけですよ。
 それを向こうのボスが,「うちの工場には,ニュートン盤を磨けるのは6~7人いる」と言ったのですよ。「冗談だろう,そんなわけがない。日本だって,大手でも工場の中で数人しかいないのだから」と言ったら,「いや,本当にそうだ」と,「だって,会社をつくってまだ5~6年でしょう?」と言ったら,「そうだ」と。だけど,何でそんなにいるのか聞いたら,アメリカからテクニシャンが3人来て教え込んでいるのですよ。でも,いくら教えたと言っても,私の頭の中では,そのレベルは,勤続40年とか定年間際でなければ到達しないものだという先入観があったのです。40年近く前の話ですから,台湾もまだ戒厳令をやっていて,経済レベルがうんと低い時期です。そうすると,田舎の農村地帯の子供たちは,いくら頭が良くても経済的な理由だけで上の学校に行けなくて,工業学校に入るのがやっとです。そうすると,知能レベルが高くても,いきなり工場に入れられてしまうわけです。そして,アメリカ人の言ったことを忠実に聞いてやるのです。しかも,それなりにセオリーを考えるので「こう言われたのは,こうだからだ」と,自分なりにまた試行錯誤していくのでしょう。そうすると,あっという間に伸びていってしまうわけです。アメリカ人も「この連中は,すごく伸びが早い」と言っていました。そういう意味では,ただ年数だけいれば自動的にテクニックが上がるというのも誤解があるので,そこも見直したりすることが必要だろうと思います。
 ですから,私は工業高専の年代の人間が工場に行っても全然違和感がないし,もったいなくないと思うのですね。下手な人は1週間磨いても面が出ないのです。ところが,職人が磨くと,もう2~3日で仕上げてしまうのです。今は何でも現場の仕事のことを「職人」と呼んでいるけど,決してそうではなくて。職人になるというのはすごく難しいし,大事なことだという認識を付けたいですね。

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油 大

油 大作(あぶら・だいさく)

1936年 石川県出身
1959年 金沢大学理学部物理学科卒業
1959年 (株)三協精機製作所入社
1964年 (株)保谷硝子入社
1967年 東京光学機械(株)入社
1980年 (株)ユーカリ光学研究所を設立

●(株)ユーカリ光学研究所について
(株)ユーカリ光学研究所は1980年創業。光学機器の試作開発会社として,35年の長きにわたり,カメラ,望遠鏡,顕微鏡,赤外線,紫外線,可視光線と,用途や大きさの大小にかかわらず,さまざまな試作・開発に携わった経験をいかし,専業メーカにはない独自のノウハウを保有している。本質は光学専門のコンサルティングとしているが,商品開発から設計,試作まで自社一貫作業が可能であり,凸レンズ1枚から衛星搭載用光学装置まで対応可能な「受託開発」をはじめ,「試作サービス」「測定サービス」「設計サービス」のほか光学技術,開発コンサルティングや光学技術者受託教育も可能な「出張セミナー」など多彩なサービスを提供している。
webサイト http://yucaly.com/

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