【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

シンセサイザのように光の優れた性質を自在に操り, 力を極限まで引き出し,幅広く科学技術に貢献したい。電気通信大学 美濃島 薫

女性であることはマイナスではなく重要なキーワードのひとつ

聞き手:研究をしていく上で,女性ならではのよさや男性との視点の違いなどありましたら,お話しいただけますでしょうか。

美濃島:このようなことは,いろいろなときに聞かれます。女性ならではの研究内容というようなことはまったくないですが,女性であるということは間違いなく私を形作っている重要なキーワードの1つではあります。私は1980年代に東大に入りましたが,その年は,東大では文系も含めて,女子学生の入学者が初めて1割に達したとニュースになっていました。私は公立女子高の出身でしたが,大学に入ってみたらまさに男子大でした。私が入ったのは工学部や理学部へ進学する理科Ⅰ類でしたから,特に女子が少なかったのです。入学時は教養学部で駒場でしたが,上の学年の女子学生が,新入生を集めて最初にオリエンテーションをしてくれました。それは何かというと,トイレの場所についてでした。授業により教室が変わるのですが,すべての建物に女子トイレがあるわけではなかったのです。まさにカルチャーショックで,とんでもないところに来てしまったと思いました。さらに,3年生から本郷の理学部物理学科に進学しましたが,最初に名簿を渡されました。一学年で65人だったと思いますが,私のところに○がついているのです。なぜだろうと思い,ほかに〇がついている人がいないかと探すと,もう一人だけいました。その人は今でも親交がありますが外国籍の方でした。よく見ると,“外女”と書いてあり,いわば注釈のように〇がつけてあったのです。少数派であることを痛感させられた瞬間でした。卒業して計量研に入ったときも同様でしたし,現在でも委員会や学会に行くと,部屋に女性が私だけということがよくあります。今は気にならなくなりましたが,若い頃はその状況について,疎外感を感じたりマイナスとばかり考えていました。
 しかし,国際学会に出るようになってから,その気持ちが変わってきました。海外出張に行くときには,その近くの有名な先生や研究室を必ず訪問するようにしていました。論文でしか知らない先生に,いきなり手紙やメールを出して会いに行きました。そうすると,海外では女性ということがマイナスというよりも,むしろ少ないということで,温かく迎えてくれ,覚えてもらえるのです。また,国際学会に行くと,知らない女性の研究者が話しかけてくれたりもします。そのおかげで友だちや仲間がたくさんでき,ネットワークもできました。女性研究者であることは,ありふれない属性の一つであり,情報のあふれる現代社会においては,むしろ強みの一つになりうると思えるようになっていったのです。
 加えて,学生の頃からこのような状況に置かれていたことは,日々,覚悟と勇気を身につける訓練を自然と受けてきたようなものだと思います。自分なりの違う視点をもって研究に取り組むには,やはり覚悟と勇気がいります。結果がうまくいくかはわかりませんし,先に何が待っているかもわかりません。人生をかけているようなものです。理系女子学生,そして女性研究者という環境の中で,それを日々訓練されてきたことは,私の強みになっていると思います。

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美濃島 薫

美濃島 薫(みのしま・かおる)

1993年 東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻 博士課程 修了。博士(理学) 1993年 通商産業省 工業技術院 計量研究所 研究官 1996年 フランス・ボルドー大学 客員教授 2000年 アメリカ・マサチューセッツ工科大学客員研究員 2001年 産業技術総合研究所 主任研究員 2007年 東京理科大学連携大学院 客員教授 2013年 電気通信大学大学院情報理工学研究科 先進理工学専攻(現,基盤理工学専攻)教授(~現在),JST ERATO美濃島知的光シンセサイザプロジェクト 研究総括(~現在)
●研究分野
光コム,超高速光科学,精密計測
●主な活動・受賞歴等
2008年 科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)
2010年 応用物理学会 第1回女性研究者奨励育成貢献賞(小舘香椎子賞)
2011年 日本学術会議連携会員(~現在)
2011年 CLEO国際会議実行委員長
2013年 レーザー学会論文賞
2013年 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術への顕著な貢献2013(ナイスステップな研究者)
2014年 応用物理学会フェロー表彰(応物フェロー)
2015年 OSA Fellow表彰 アメリカ光学会( The Optical Society)
2017年 レーザー学会上級会員
2018年 レーザー学会理事
2019年 応用物理学会理事
2019年 2019 Hermann Anton Haus Lecturer, RLE, MIT

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