【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

シンセサイザのように光の優れた性質を自在に操り, 力を極限まで引き出し,幅広く科学技術に貢献したい。電気通信大学 美濃島 薫

時間をかけて深く考え,自分の考えを人に話してみる

聞き手:研究・開発をされていくなかでは苦労されたことも多かったと思いますが,困難をどのようにして乗り越えられたのでしょうか。

美濃島:どんなことでも苦労はあり,何事もなくうまくいくことはありません。ときには打ちのめされるようなこともありますが,それでもやめようとは思いませんでした。研究者は基本的にあきらめが悪い人が多いのではないでしょうか。
 どうやって乗り越えるのかですが,学生によく言っているのが,目の前のことをあきらめずに続けることと,同時に自分の視野を広げることです。この両面が大事だと思います。困難があってもそれでもやりたいという思いをもって突き進むためには,覚悟をもって取り組むことが必要です。何事もある程度時間をかけて向き合い,熟成させて深く考えていかないとできません。しかし,同時に視野を広げることも必要で,それには人と話すことが有効です。相手は家族でもいいし,友だちでもいい。別に内容を相談するというのではなくても,自分の考えを話すことが大切です。そうすると,自分の中の考えがほぐれて,整理されてきます。もちろん,その前には深く考え,継続してやってきたことが頭の中に蓄積していないといけません。それが話すことで再構築され,ストーリーとしてつながっていき,解決策やヒントが見つかるのです。
 私の研究室では,学生ごとに違うテーマを研究していますが,もちろん根のところではつながっています。ですから,隣りの人がやっていることでも自分のテーマだと思って話をしたり聞いてみたりするようにと,最初に全員に話しています。そうやって視野を広げると,自分の研究のヒントにつながることがあります。単にわからないことを先生やわかる人に聞くだけでは,その瞬間はわかったと思ってもすぐ忘れてしまいます。しかし,自分で苦労して,ああでもない,こうでもないと,いろいろ経験したことをいっぱい詰め込んでおくと,それは消えません。例えば,友だちに話をすると,友だちは答えを教えてくれるわけではなくても,自分の中で詰め込んできたことの組み替えをすることができるのです。そのときわかったことは点にしか過ぎませんが,それが線や面や立体となって自分の脳を変えてくれるのです。そういったものが自分の中にどれだけあるかで人間の価値が決まりますから,無駄な経験はありません。学生時代に与えられたテーマは,ある意味,例題のようなものですが,そこで悩みながらしっかり深掘りできれば,そのプロセスが自分の中に蓄えられ,まったく違う研究や仕事に取り組んだときにも,それが応用され活かされるのです。 <次ページへ続く>
美濃島 薫

美濃島 薫(みのしま・かおる)

1993年 東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻 博士課程 修了。博士(理学) 1993年 通商産業省 工業技術院 計量研究所 研究官 1996年 フランス・ボルドー大学 客員教授 2000年 アメリカ・マサチューセッツ工科大学客員研究員 2001年 産業技術総合研究所 主任研究員 2007年 東京理科大学連携大学院 客員教授 2013年 電気通信大学大学院情報理工学研究科 先進理工学専攻(現,基盤理工学専攻)教授(~現在),JST ERATO美濃島知的光シンセサイザプロジェクト 研究総括(~現在)
●研究分野
光コム,超高速光科学,精密計測
●主な活動・受賞歴等
2008年 科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)
2010年 応用物理学会 第1回女性研究者奨励育成貢献賞(小舘香椎子賞)
2011年 日本学術会議連携会員(~現在)
2011年 CLEO国際会議実行委員長
2013年 レーザー学会論文賞
2013年 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術への顕著な貢献2013(ナイスステップな研究者)
2014年 応用物理学会フェロー表彰(応物フェロー)
2015年 OSA Fellow表彰 アメリカ光学会( The Optical Society)
2017年 レーザー学会上級会員
2018年 レーザー学会理事
2019年 応用物理学会理事
2019年 2019 Hermann Anton Haus Lecturer, RLE, MIT

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