【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

シンセサイザのように光の優れた性質を自在に操り, 力を極限まで引き出し,幅広く科学技術に貢献したい。電気通信大学 美濃島 薫

不思議への興味,宇宙や相対論から光の世界へ

聞き手:まず光学分野に興味をもたれたきっかけについて教えていただけますか。

美濃島:子どもの頃から,地球や人類,生き物の歴史を含めて自然界の成り立ちなど,不思議なことに興味があり,研究者になりたいという気持ちはずっとありました。その中で興味をもったのが星でした。それまであまり星というものを意識していなかったのですが,あるとき空をよく見てみると,ただ背景のようにあると思っていた星の光にパターンがあることに気づいて衝撃を受けました。調べてみると星座や星に今まで知らなかった仕組みがあることがわかり,とても興味を魅かれました。それが1つのきっかけでした。
 高校では地学部に入りました。地学部では,地質や気象,天文などの班があり,そこで出会ったのが相対論です。相対論は速く動けば時間が遅れるとか,双子のパラドックスとか,常識で考えると非常に不思議な世界です。さらに調べていくと,E=mc2でも表されているように,相対論を貫く軸に光があり,光は何でこのような特別な役割を与えられているのだろうと,ますます魅かれていったのです。
 そういった光に関する興味がベースにあり,その基礎となる物理を研究したいと思って,大学では理学部の物理学科に進みました。研究室を決めるときにも,さらに光分野について調べていくと,医療や通信など身近な社会・産業の技術に対しても光が有効であることがわかり,今度は光の奥深さに驚かされました。それ以来,光を軸にして研究を続けていくことになりました。
 私が大学のときに研究していたのは,フェムト(1000兆分の1)秒~ピコ秒というパルス幅を持つ超高速の超短パルスレーザーです。超短パルスを有機材料や半導体材料に当て,フェムト秒という短い時間だけ物質に変化を起こさせ,それが緩和して時間応答していくのを測るという研究です。手製の色素レーザーを用いていたので,毎回,実験の最初には循環用チューブを洗って色素を交換するところから始め,部屋いっぱいに広がる複数の大きなテーブルに分かれて組まれた光学系を順に調整し,1週間寝袋を敷いて泊まり込み,データを取り始められるのは週の後半というような大変なものでした。このように,安定な超短パルスを再現性よく出力して利用するというのからは程遠かったのです。
 就職先は通産省工業技術院の計量研究所でした。国家標準を担う研究所で,すべての研究において光が使われており光の重要性の認識を新たにしましたが,超精密な連続波レーザーばかりで,その中で,超短パルスレーザーを研究しているのは私くらいのものでした。当時,一定の出力で連続発振する超精密な連続波レーザーと,私の研究していた一瞬だけ光る尖頭値の高い超短パルスレーザーとでは,まったく対極にあるような世界でしたので,私はいわば異端児のようなものでした。実際は,数学的にはフーリエ変換の関係にありますから,理想的には,ある成分を取り出してみれば,きれいなコヒーレンス長の長い光であり,それを重ね合わせて超短パルスの列ができているわけですが,当時のレーザーでは,出力される個々のパルスの特性はばらばらで,パルス列の中のパルスどうしのコヒーレンスを考えるには程遠い世界でした。それでも,超短パルスレーザーを精密な世界で使うというテーマで研究を進めていきました。若手がなぜそんな将来性のない研究をしているのかと言われたこともありましたが,やめようとは思いませんでした。自分としては超短パルスレーザーに様々な可能性を感じていて,それが使い尽くされてないという思いがあったからです。

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美濃島 薫

美濃島 薫(みのしま・かおる)

1993年 東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻 博士課程 修了。博士(理学) 1993年 通商産業省 工業技術院 計量研究所 研究官 1996年 フランス・ボルドー大学 客員教授 2000年 アメリカ・マサチューセッツ工科大学客員研究員 2001年 産業技術総合研究所 主任研究員 2007年 東京理科大学連携大学院 客員教授 2013年 電気通信大学大学院情報理工学研究科 先進理工学専攻(現,基盤理工学専攻)教授(~現在),JST ERATO美濃島知的光シンセサイザプロジェクト 研究総括(~現在)
●研究分野
光コム,超高速光科学,精密計測
●主な活動・受賞歴等
2008年 科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)
2010年 応用物理学会 第1回女性研究者奨励育成貢献賞(小舘香椎子賞)
2011年 日本学術会議連携会員(~現在)
2011年 CLEO国際会議実行委員長
2013年 レーザー学会論文賞
2013年 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術への顕著な貢献2013(ナイスステップな研究者)
2014年 応用物理学会フェロー表彰(応物フェロー)
2015年 OSA Fellow表彰 アメリカ光学会( The Optical Society)
2017年 レーザー学会上級会員
2018年 レーザー学会理事
2019年 応用物理学会理事
2019年 2019 Hermann Anton Haus Lecturer, RLE, MIT

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