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辛辣な人との出会いや自分の失敗が自分の潜在能力を引き出してくれるニューヨーク州立ストーニーブルック大学客員教授(放射線医学) 谷岡 健吉

デバイス系の研究で重要なのは,論文をうのみにしないで 自分の手で確かめること

谷岡:他の研究者も過去にそういう現象に遭遇していたのだろうけれども,なぜ私にこれが有用な現象であることが分かったのかと聞かれると,私は徹底して自分で手を汚して実験等に取り組み,注入型はどのような振る舞いをするかとか,それを体で覚えていたからだと思います。論文を読んでいるだけでは,なかなかそういう嗅覚的といえるような感性は磨かれませんので。論文を読むことはもちろん非常に大事ですが,それが本当かなと自分で確かめる,論文をうのみにしないことが,特にデバイス系の研究では非常に重要ではないかと思います。
 このHARPの現象発見は技研では極秘扱いとなっていました。ちょうどその時期に本部から技研に新しい所長が着任しました。その新所長に先に話したすし屋でまた偶然に会いました。ぺいぺいの私の顔をその新所長が知るはずはないのですが,一緒に行った私の上司を見て新所長は私が撮像管グループの人間であることが分かったのではないかと思います。赤ら顔の所長は私をつかまえて,「おい,HARPというのは,おまえの所の作業員が発見したそうだな」と言われました。私は作業員的に研究することに,ある意味誇りを持っていたのです。だけど,その作業員という言い方に非常にさげすみを感じて,かっと来ました。でも,かっかしてもしょうがないなと。私は心の中で「何だ。本部から来た所長は別に研究の実績があるわけじゃない,だったら,私は高卒だけれども,ハードルの高い博士号に挑戦してやるぞ」と思ったのです。そのつもりはなかったですけど,こういったことを言われて,そのまま引き下がるのはどうも面白くないと思って,それで一念発起して学位を取ろうと思いました。その後,博士を取るために何年かはかかったのですけど,1日3時間睡眠ぐらいで論文を書き,東北大から博士号を授与されました。新所長にあのようなことを言われてなければ,学位を取る馬力はつかなかったと思いますので,その所長に今では感謝しています。博士号を持っていることは特に海外の研究者と付き合う上で重要です。
 HARPはご存じのように,ハイビジョンのカメラにも使われました。今もまだカメラが保存されていると思います。当然カラーカメラですと,レンズがあって,プリズムがあって,赤,青,緑でカラーの映像が出るのですが,CCDカメラで撮れない明るさでも、鮮明に撮影できました。最初に使われたのがソウルオリンピックでのハイビジョン撮影でした。
 普通NHKの技術の仕事はあまり外に広く知られることはないのですが,たまたまHARPカメラの発明から10年くらいたち,人の目を上回るレベルになってきたとき,ちょうど20年前の1995年ですが,函館でハイジャック事件が起きました。空港は灯火管制で暗く,CCDカメラではほとんど映らない,記者の目にもよく見えないのが,HARPカメラを向けると,機動隊が突入の準備を進めているのが鮮明に映っていました。事件解決後にこの技術が非常に話題になり,ニュースや新聞で大きく紹介されて,HARPの技術の存在が他の分野の研究者にも広く知られるようになりました。それがその後のがんの超早期発見の研究やバイオサイエンスへの応用の研究につながりました。 <次ページへ続く>
谷岡 健吉(たにおか・けんきち)

谷岡 健吉(たにおか・けんきち)

1948年 高知県高知市生まれ 1966年 高知県立高知工業高校電気科卒業 1966年 NHK高知放送局入局 1976年 NHK放送技術研究所に異動 1989年 同研究所 映像デバイス研究部主任研究員 1994年 博士(工学)(東北大学) 1995年 イメージデバイス研究部 副部長 1997年 撮像デバイス 主任研究員 2000年 撮像デバイス部長 2004年 放送デバイス 部長(局長級) 2006年 放送技術研究所 所長(理事待遇) 2008年 定年退職 2008年~2015年 高知工科大学客員教授 2011年~東京電機大学客員教授(工学部) 2015年 ニューヨーク州立ストーニーブルック大学客員教授(放射線医学)
●主な活動・受賞歴等
1982年 鈴木記念賞「Se系光導電形撮像管のハイライト残像とその改善」 1983年 放送文化基金賞「高性能カメラの開発」 1990年 放送文化基金賞「高感度・高画質HARP撮像管の開発」 1991年 市村学術賞 功績賞「超高感度・高画質撮像管の開発と実用化」 1991年 丹羽高柳賞 論文賞「アバランシェ増倍 a-Se光導電膜を用いた高感度 HARP撮像管」 1991年 SMPTE Journal Award 「High Sensitivity HDTV Camera Tubewith a HARP Target」 1993年 高柳記念奨励賞「ハイビジョン用高感度HARP撮像管の開発」 1994年 大河内記念技術賞「アバランシェ増倍型高感度撮像管の開発」 1996年 全国発明表彰 恩賜発明賞「超高感度撮像管の開発」 2002年 放送文化基金賞「超高感度ハイビジョン新Super-HARPハンディカメラの開発」 2008年 文部科学大臣表彰 科学技術賞「微小血管造影法の研究」 2008年 産学官連携功労者表彰 日本学術会議会長賞「リアルタイム3次元顕微撮像システムの開発及び細胞内分子動態リアルタイム可視化研究」 2012年 前島密賞 2012年 丹羽高柳賞 功績賞「アバランシェ動作方式超高感度高画質撮像デバイスの研究開発」

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