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辛辣な人との出会いや自分の失敗が自分の潜在能力を引き出してくれるニューヨーク州立ストーニーブルック大学客員教授(放射線医学) 谷岡 健吉

実用化にならない経験がなかったら,HARPの発見はなかった

谷岡:後藤直宏さんという方が,私が留学していたときの指導上司でした。この方は高知出身で,東工大卒の有名な研究者で,サチコンという撮像管の発明者の1人です。私にマンツーマンでずっと教えてくれていました。後藤さんご自身は日立との共同研究で,ハンディカメラ用の小型撮像管を研究されていました。ヨーロッパのフィリップスが開発したプランビコンと競い合えるような,解像度がよい撮像管を日本で開発し,NHKのハンディカメラに導入して実用化することに力が入っている時期でした。ただ,後藤さんはその次のことも考えられていたのだと思います。
 サチコンというのは阻止型とよばれる撮像管の一つです。当時,日本で東芝さんや松下さんといった,いろいろなメーカーさんが撮像管を研究していましたが,ほとんどは阻止型でした。ですが阻止型の光電変換膜だと画質は良いのですが増幅作用がなく超高感度化ができません。そこで後藤さんは,私に注入型の高感度撮像管のテーマをくださいました。使う材料はサチコンと同じセレンでした。研究所の地下のクリーンルームで蒸着をしており,希望する膜構造のものづくりができました。
 ただ,私は高卒で,物性もやったことがありませんでしたから,最初の3カ月ぐらいは何も分かりませんでした。大学のほうは100人以上いる教室で,教科書を講義しているだけで自分でも勉強できるのではないかと思ったのですが,研究所に行くと,後藤さんがマンツーマンで教えてくれ,しばらくすると「後藤さんの言っているのは,そういう意味か」と分かり,すごく面白くなりました。
 4月から始まり,翌年の3月には普通の撮像管と言うか,当時のサチコンの原形の5~6倍の感度が出ました。後藤さんが当時の所長を呼んで見てもらおうと言ったのを,今でもはっきり覚えています。この技研では,夏は暑くてワイシャツを脱いで実験をしていたため,腕が回路に触って何回か感電もしましたが,結構楽しい毎日でした(笑)。しかし,この留学中に取り組んだ注入型の撮像管は,残像が多く,しかも量子効率が悪い。そういう理由で,実用化になりませんでした。それで1年が終わったのですが,この経験がなかったら後のHARPの感度増加現象の発見はなかったと思います。  留学を終えた後,高知に帰って,私は自分が変わったなと感じました。それまでは私が高知で技術の勉強をしようとしても,当時は高知工科大もなく,書店にも専門書がありませんでした。ですからNHKの本部の技術者が作った技術指導書のような本で勉強していました。
 私はそこに書かれてあることは,100%絶対正しいと思っていました。ところが,撮像分野を勉強した後では,あれ?と。ここに書かれているのは違うじゃないかとか,もっといい特性を得る方法があるじゃないかと思うようになりました。お金を出して勉強させてもらったことを放送技術の改善に役立てたいと思い,高知放送局のカメラの残像を減らすとか,ノイズを減らすとか,そんなことをやり始めました。 <次ページへ続く>
谷岡 健吉(たにおか・けんきち)

谷岡 健吉(たにおか・けんきち)

1948年 高知県高知市生まれ 1966年 高知県立高知工業高校電気科卒業 1966年 NHK高知放送局入局 1976年 NHK放送技術研究所に異動 1989年 同研究所 映像デバイス研究部主任研究員 1994年 博士(工学)(東北大学) 1995年 イメージデバイス研究部 副部長 1997年 撮像デバイス 主任研究員 2000年 撮像デバイス部長 2004年 放送デバイス 部長(局長級) 2006年 放送技術研究所 所長(理事待遇) 2008年 定年退職 2008年~2015年 高知工科大学客員教授 2011年~東京電機大学客員教授(工学部) 2015年 ニューヨーク州立ストーニーブルック大学客員教授(放射線医学)
●主な活動・受賞歴等
1982年 鈴木記念賞「Se系光導電形撮像管のハイライト残像とその改善」 1983年 放送文化基金賞「高性能カメラの開発」 1990年 放送文化基金賞「高感度・高画質HARP撮像管の開発」 1991年 市村学術賞 功績賞「超高感度・高画質撮像管の開発と実用化」 1991年 丹羽高柳賞 論文賞「アバランシェ増倍 a-Se光導電膜を用いた高感度 HARP撮像管」 1991年 SMPTE Journal Award 「High Sensitivity HDTV Camera Tubewith a HARP Target」 1993年 高柳記念奨励賞「ハイビジョン用高感度HARP撮像管の開発」 1994年 大河内記念技術賞「アバランシェ増倍型高感度撮像管の開発」 1996年 全国発明表彰 恩賜発明賞「超高感度撮像管の開発」 2002年 放送文化基金賞「超高感度ハイビジョン新Super-HARPハンディカメラの開発」 2008年 文部科学大臣表彰 科学技術賞「微小血管造影法の研究」 2008年 産学官連携功労者表彰 日本学術会議会長賞「リアルタイム3次元顕微撮像システムの開発及び細胞内分子動態リアルタイム可視化研究」 2012年 前島密賞 2012年 丹羽高柳賞 功績賞「アバランシェ動作方式超高感度高画質撮像デバイスの研究開発」

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