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コバルトブルーに魅せられて -前人未到のGaN p-n接合への挑戦-名城大学 / 名古屋大学 赤崎 勇

原点に戻り結晶作りから

 私はGaN研究をすすめることにはまず良質の結晶を作ることだと思っていましたから,名古屋大学に帰ってからは,原点に戻って”結晶成長”の研究からはじめようと決めていました。つまり,GaN結晶の作り方から見直そうということです。そのころのGaN結晶は,最初のものに比べればほんの少しは良くはなっていましたが,やはり品質は相当悪いものでした。
 私は長い間結晶成長をやってきましたので,結晶の作り方1つで性質(品質)が劇的に変わると考えていました。そこでいろいろ考えた結果,MOCVD(有機金属化学気相成長法:Metalorganic Chemical Vapor Deposition)と呼ばれる方法を使おうと決めたのです。1978年のことです。この方法でそれ以前にGaNの良い結晶を作ったという例はまだありませんでした。成長法としてMOCVDを使うと決めると次の課題は,結晶成長させるための基板に何を使うかということでした。実は,サファイアとGaNは不整合は極めて大きいのですが,MOCVDではアンモニアを使い約1000℃で成長させますからその条件下での耐性を優先しました。
 これで,MOCVD法とサファイア基板というところまで決まったのですが,実は肝心のGaN用のMOCVDの装置はなかったのです(笑)。ですから自分たちで設計し,学生さんに作ってもらうところから始めました。なんとか装置も無事完成し,いざ結晶をつくるという段階になって,大きな壁にぶつかったのです。これははじめから分かっていたことなのですが,GaNとサファイア基板の不整合があまりにも大きいということです。
 いろいろ条件を変えて作っても,結晶の表面は相変わらず“かたがた”でした。そのままではどうしようもなくて,何とかしてこの不整合を緩和する方法がないだろうかと考えているときに,ふと浮かんだのが“低温バッファー”というアイディアです。
 低温バッファー法というのは,GaNとサファイア基板の間に緩衡層を挿入するという考え方で,GaNを成長させる前に低い温度で一旦,緩衡層となる柔らかい材料を積んでおくのです。柔らかいものといっても液体というわけにはいきませんので,“低温”で(微結晶を含む)アモルファス状の薄層にしました。バッファー層用材料として,その時考えたのは,GaNやサファイアになるべく性質が似通っている材料がよいということで,候補としてZnO,AIN,GaNとSiCを考え,メモしました。その中でAINは66年からやっていましたので,まずAINからはじめたのです。
 このアイディアは,見事に的中しました。もちろん,最適条件を見出すまでには,学生さん達の大変な努力,協力がありました。このAINの低温バッファー層がサファイア基板とGaNの不整合によるさまざまな不都合を解消し,その上に成長させたGaNは無色透明,クラックやピットのまったくないもので,品質は飛躍的に向上したのです。この技術は,日米で特許を取得しています。(写真1)
(a)は顕微鏡的にも構造(欠陥)は何も見えない。(b)は成長時間がそれほど長くない時は,それ以外の部分には何も成長せず,基板表面が現れている。

写真1
(a)は顕微鏡的にも構造(欠陥)は何も見えない。(b)は成長時間がそれほど長くない時は,それ以外の部分には何も成長せず,基板表面が現れている。

 現在GaNの単結晶作製にはこの低温バッファー層技術が不可欠となっており,これにより,それまで表面の凸凹が激しくスラックやピットだらけの劣悪な品質の結晶というのが常識だったGaN結晶が, 全く無色透明になったのです(写全2)。
写真2低温堆積緩層の効果は絶大で,写真のようにきれいに(無色透明で,下に敷いた方眼紙に印刷された文字がはっきりと読める)なっただけでなく,結晶性(X線,電顕等)のみならず,電気的,光学特性もこれ(b)を用いて,飛躍的に向上した。

写真2
低温堆積緩層の効果は絶大で,写真のようにきれいに(無色透明で,下に敷いた方眼紙に印刷された文字がはっきりと読める)なっただけでなく,結晶性(X線,電顕等)のみならず,電気的,光学特性もこれ(b)を用いて,飛躍的に向上した。

このことを夢見て研究をしてきましたが,実際に実現した時には興奮しました。このGaN結晶は外見がきれいに見えるだけでなく,電気的性質や光学的な性質も格段に優れていることが分かりました。これで,GaN研究の最大の山場を突破したのです。 <次ページへ続く>
赤崎 勇(あかさき・いさむ)

赤崎 勇(あかさき・いさむ)

1952年,京都大学理学部卒業。同年,神戸工業(株)入社。59年,名古屋大学工学部電子工学科助手,同講師,同教授を経て64年,松下電器産業(株)入社,東京研究所基礎第4研究室々長,同半導体部長等を歴任。81年,名古屋大学工学部電子工学科教授。92年,名古屋大学定年退官。同年,名城大学理工学部電気電子工学科教授,名古屋大学名誉教授。95?96年,北海道大学量子界面エレクトロニクス研究センター客員教授。96?2001年,日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業プロジェクトリーダー。96年~,文部科学省 名城大学ハイテク・リサーチ・センタープロジェクトリーダー。2001年,名古屋大学赤崎記念研究センター(兼務),そして現在に至る。
工学博士,IEEE Fellow,日本フィンランドインスティチュート理事,フランス共和国モンペリエ市名誉市民,科学技術振興事業団 参与(02年~)など。 1995年,ハインリッヒ・ウェルカー金メダル。97年,紫綬褒章。98年,ローディス賞。98年,ジャック・A・モートン賞。99年,米国国体科学技術賞。2000年,東レ科学技術賞。01年,朝日賞。02年,第2回応用物理学会業績賞(研究業績)。02年,藤原賞など多数受賞。

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