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しっかりした高い目標を掲げれば実現への道はやがて拓ける国立天文台 教授 家 正則

失敗談,苦労話

聞き手:研究・開発プロセスにおいて,自信を喪失したり試行錯誤して苦悩された苦いご経験がありましたら,ぜひそのエピソードをお聞かせください。
:まあ,失敗談とか苦労話は数限りなくあります。そのときは落ち込んだりもしますが,楽天家なのかあんまり引きずらないですね。最初にCCDカメラを完成したときも,万端の実験・準備を整えて岡山の2m望遠鏡に付けました。ところが,銀河の写真を撮ろうとしたら画像が出てこない。CDD素子が静電破壊で壊れたらしいのです。米国の業者に電話して,代わりのデバイスを手配しましたが,折角割り当ててもらった観測予定期間中には届きません。そんな時に限って毎晩快晴の観測日和が続くではありませんか。普通,精密素子には静電気破壊が起こらないように安全回路を付けておくものなのですが,その業者は付けていなかった。私の事故の後,それを付けるようになりましたが……(笑)。
 5年間で6億円の科学研究費をもらって,補償光学装置を開発したときも冷汗三斗でした。当初計画よりは遅れが生じ,最終年度に成果が出ないと,やっぱりまずいわけです。装置の基本的なところだけは動くようになったので,すばる望遠鏡に搭載することになり,装置をハワイに送る手続きを整える段で問題が生じました。この年は,国立天文台がそれまでの国の直轄機関から,大学共同利用機構法人となった初年度でした。すばるを建設した当時は国の直轄機関で,日米間の取り決めにより関税が免除さしていました。ところが国の直轄機関ではなくなったため,取り決めがご破算になり,もう1度米国に申請し直していたのです。免税の通知が輸送時には未だ届いていないことが判明したのです。関税を払って送るか,免税の許可が出るまで待つかですが,研究期間の終了期限が迫るので,関税を払って通関しようと準備を始めると,米国に免税の申請をしている期間中に,急ぐからとはいえ関税を払って通関する前例をつくってしまうと自己矛盾となるので,待てと差し止められてしまいました。その事情も分かるのですが,私にも時間のリミットがあるので,八方ふさがりとなり,当時初めて設けられた年度予算の繰越措置を申請して,輸送を3ヶ月だけ延期しました。この手続きにもひと騒動ありまして,胃が痛くて1日寝込んでしまいました(笑)。
 3ヶ月の延長期間も切れ,もうこの日に送らないと観測成果を出す時間が確保できないっていう最後の日に,「免税になりました」と連絡が入ったのです。これは劇的なタイミングで,一生の運を使い果たしたかと思いました。 <次ページへ続く>
家 正則(いえ・まさのり)

家 正則(いえ・まさのり)

1949年札幌市生まれ 1972年東京大学理学部天文学科卒業 1977年東京大学理学系大学院博士課程修了 1977年日本学術振興会奨励研究員 1977年東京大学理学部天文学科助手 1981年東京大学東京天文台助手 1986年東京大学東京天文台助教授 1988年国立天文台助教授 1992?国立天文台教授 この間,日本天文学会副理事長,総合研究大学院大学数物科学研究科長,国際天文連合日本理事,日本学術振興会学術システム研究センター数物系科学主任研究員,国際光工学会シンポジウム組織委員長などを歴任
●分野
銀河物理学,観測天文学
●主な受賞歴等
2013年日本学士院賞 2011年紫綬褒章 2011年東レ科学技術賞 2010年文部科学大臣表彰 2010年研究部門 2008年仁科記念賞 2006年日本光学会 2006年度光設計特別賞 2003年第44回平成15年度科学技術映像祭文部科学大臣賞(科学技術部門) 2002年第13回ハイテクビデオコンクール2002年度最優秀作品賞

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