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しっかりした高い目標を掲げれば実現への道はやがて拓ける国立天文台 教授 家 正則

理論から観測へ,そして技術開発へ

 大学院に入ってからのテーマは,銀河の渦巻構造がなぜできるのかという理論的な研究でした。学部では授業を受け身で聞くだけでしたが,大学院では自分で研究したいことを決めて,自主的に最先端の論文を読み勉強するようになります。それが面白くて,やっとまじめに集中して勉強し始めました。
 銀河の渦巻きに関する論文は,物理数学をふんだんに使うもので,自分には向いていました。渦巻銀河を物理学的なモデルに置き換え,銀河が振動するようすを微分方程式にして,解析的にあるいはコンピューターで分析します。「自己重力微分回転銀河円盤の重力不安定渦状モード」というタイトルの博士論文をまとめました。私の研究ではどのような渦巻模様ができるかは,銀河自体の構造に依存します。理論的研究を進める一方で,自分の理論予測が本当に正しいかどうかは,観測データで検証すべきだと考えていました。それで,理論の学位研究をやりながら,観測もやることにしました。東京大学東京天文台の岡山天体物理観測所で渦巻銀河の写真を望遠鏡で撮影し,銀河の基本構造と渦巻模様の関係を調べる観測を始めました。大学院生の20代半ばで,当時日本で一番大きい2メートルの望遠鏡を自分で操作して,自分の研究のための天体写真を撮るという体験に,大きな感動を覚えたものです。
 東京天文台には岡山の2m望遠鏡の他に,木曽観測所に1mのシュミット望遠鏡があります。木曽は岡山よりも空が暗いので銀河の観測には適しています。どちらにも大学院時代には何度も通って観測しましたが,やっぱり国内では良い観測ができないのです。岡山だと3割晴れればいい方で,木曽だと1割とか2割しか晴れなくて,13夜観測したけど一晩しか晴れないこともありました。
すばる望遠鏡の主焦点カメラSuprimeCamで撮影した渦巻銀河NGC6946。四本の渦巻腕に沿って青い星や赤いガス星雲が並んでいる。

すばる望遠鏡の主焦点カメラSuprimeCamで撮影した渦巻銀河NGC6946。四本の渦巻腕に沿って青い星や赤いガス星雲が並んでいる。

 一所懸命,銀河の観測をして,そのデータから論文を書こうとするのですが,日本で観測したデータでは,海外で観測されたデータと比べると,どうしても見劣りしてしまうのです。これじゃあ,勝負にならない。この状況を何とか改善したいという気持ちが強くなりました。
 1977年に博士の学位を得て,東大の助手に採用してもらい,1982年からイギリスとドイツに合計2年間,留学する機会を得ました。イギリスでは,渦巻の理論研究を続けましたが,2年目は,ドイツに本部があるヨーロッパ南天天文台ESOに招いてもらいました。ESOはヨーロッパ8カ国からなる国際天文台組織で,チリのアンデス高原に世界最先端の望遠鏡を建設して運営していました。当時,その最先端の4m望遠鏡の新しい観測装置が完成直前であり,この装置を駆使した観測提案を4つ書いたところ,そのうちの3つが面白いと採用されました。ESOでは加盟国以外の国籍の新参者でしたが,観測装置立ち上げを兼ねて,最初のユーザーとしてドイツから1カ月間チリに赴くことになりました。最先端の天文台現場での,この1ヶ月の観測体験は,世界のトップレベルを体得する良い機会となり,非常にカルチャーショックを受けました。装置のレベルと観測手法の洗練度が違います。これまでの日本の観測では適わないはずだと納得しました。
 2年間の留学が終わり帰国すると,すぐに新しい技術を使ったCCDカメラを開発して,日本の望遠鏡の観測感度をアップするというテーマで科学研究費の申請を行いました。これは非常にいい評価をもらいまして,当時30代の若手の助手としては,破格な額になる3000万円ほどの研究費を頂きました。この研究費で2年後に,日本で最初の本格的なCCDカメラを完成させ,岡山の望遠鏡に載せたら,それまで写真観測では21等星までしか観測できなかったのに,24等星がいきなり見えるではありませんか。3等級暗いというのは今まで見えていた一番暗い星より,さらに20分の1ぐらいの暗さのものまで見えるということです。新しい技術をしっかり導入すれば,日本の観測レベルを世界のレベルに引き上げることが可能だと示すことができました。
 もともとは理論研究者だったのですが,理論の証明には観測が大事で,観測のレベルを上げるには,よりよい装置開発が必要だというので,だんだん研究のスタイルがシフトしていきました。今は,大きな国際プロジェクトの代表者として,予算獲得の書類づくりや,国際協議のバトルが仕事の中心となっています(笑)。 <次ページへ続く>
家 正則(いえ・まさのり)

家 正則(いえ・まさのり)

1949年札幌市生まれ 1972年東京大学理学部天文学科卒業 1977年東京大学理学系大学院博士課程修了 1977年日本学術振興会奨励研究員 1977年東京大学理学部天文学科助手 1981年東京大学東京天文台助手 1986年東京大学東京天文台助教授 1988年国立天文台助教授 1992?国立天文台教授 この間,日本天文学会副理事長,総合研究大学院大学数物科学研究科長,国際天文連合日本理事,日本学術振興会学術システム研究センター数物系科学主任研究員,国際光工学会シンポジウム組織委員長などを歴任
●分野
銀河物理学,観測天文学
●主な受賞歴等
2013年日本学士院賞 2011年紫綬褒章 2011年東レ科学技術賞 2010年文部科学大臣表彰 2010年研究部門 2008年仁科記念賞 2006年日本光学会 2006年度光設計特別賞 2003年第44回平成15年度科学技術映像祭文部科学大臣賞(科学技術部門) 2002年第13回ハイテクビデオコンクール2002年度最優秀作品賞

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