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失敗を重ねながら良い方法を自分で見つけ出す訓練が後に活きる東北大学 波岡 武

写真に映し出されるスペクトルに興味を抱く

聞き手:波岡先生のご専門についてお聞かせください。

波岡:光学の中でも真空紫外分光学と呼ばれる分野で,空気中では吸収されて観測できない光を扱ってきました。真空紫外線は,紫外線よりも短い波長の光で,約200 nmから約0.2 nmまでの範囲の真空中でしか観測できません。英語の頭文字をとってVUV(Vacuum Ultraviolet)と呼ばれています。放射光や自由電子レーザーはVUVやX線の強力な光源です。真空紫外線の短い方はX線領域と重なっています。通常,X線は何でも透過すると思われていますが,それは空気で吸収されない硬いX線,硬X線と言われるX線です。
 私が研究対象としていた0.2 nmから30 nmくらいまでの間のX線は,軟らかいX線,軟X線と言います。現在,軟X線の応用は,超微細半導体回路製作用の縮小投影露光装置や,燃料電池の開発研究,宇宙観測のためのX線天文衛星など,さまざまな分野に広がってきています。

聞き手:先生が光学分野に進まれたきっかけをお聞かせください。

波岡:私の場合,学校は全部旧制で,1947年に東京文理科大学(現在の筑波大学)の物理学科に入学した時の定員は12名で少なく,先生の方が多かったかもしれません。そのころ大学は3年制で,大学院と言わず,前期3年,後期2年の研究科がありました。その年に東京の大久保にあった旧陸軍技術研究所跡に大学の分室ができ,地質鉱物と物理の一部が移転しました。
 1949年には学制改革により新制東京教育大学に包括され,この分室に紫外線・赤外線の2部門からなる日本初の附置光学研究所が発足し,1952年以降順次増設され,7部門となりました。理論部門での朝永振一郎先生のお仕事が1965年のノーベル物理学賞受賞につながりました。赤外線や紫外線部門でも,世界に誇れる光電測定赤外分光器や光電測定真空紫外モノクロメーターのほか,X線顕微鏡や人工真珠,回折格子などが開発されました。
 学生実験でプリズム分光器を調整してスパークや窒素の放電管などからの光のスペクトル写真を撮りました。私は,この線スペクトルや帯スペクトルを解析すれば,原子や分子の外殻電子のエネルギー順位が決められるのだと思ったら,スペクトルがとても美しいものに思えました。
 大学2年生の夏に,真空紫外分光を研究されていた田中善雄先生に教えていただけるように頼みに行ったところ,水晶のプリズムとレンズ・水銀灯を使って水銀のスペクトルを撮るよう命じられました。雑器具物置から材料を集めてきて,何とか分光器を作りました。毎日毎日スペクトルの写真を撮って先生のところに持っていきました。けれども,正確な波長測定が可能な程度に,もっときれいなスペクトルを撮らないとダメだと言われました。それには,良いものを見ないといけない。本当に良いものを見たら,自分の写真が良いものか悪いものかがわかるはずだと言って,1冊のスペクトル写真集を手渡されました。ひと夏かかって,先生からやっと見られるようになったと言われました。それが,真空紫外分光学への道に進むきっかけでした。

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波岡 武

波岡 武(なみおか・たけし)

1950年 旧制東京文理科大学文理学部物理学科卒業 1953年 同科研究科前期3年終了 1953年 東京教育大学助手 1955年 シカゴ大学大学院入学 1959年 同校博士課程物理学専攻終了 Ph. D. in Physics 1959年 米国Kitt Peak National Observatory, Research Associate 1960年 米国AF Cambridge Research Laboratory Project Physicist 1965年 東京教育大学助教授 1977年 東北大学助教授 1980年 同校教授兼高エネルギー物理学研究所教授 1991年 東北大学名誉教授,米国Universities Space Research Association Senior Research Scientist, Center for X-Ray Optics, Lawrence Berkeley Laboratory Affliate Member, University of Maryland Adjunct Professor 1994-97年 米国Naval Research Asian Office Science Advisor 1998-2008年 日本原子力研究機構研究嘱託
●研究分野
真空紫外分光学,軟X線光学
●Optical Society of America Fellow, 日本分光学会名誉会員,日本放射光学会名誉会員

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