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失敗を重ねながら良い方法を自分で見つけ出す訓練が後に活きる東北大学 波岡 武

自分がおもしろいと思うことは人に強制されるものではなく,自分で見つけるべきもの

聞き手:最後に若手研究者・技術者,学生に向けて,光学のおもしろさなどメッセージをお願いします。

波岡:私の若い頃の話だけしましたが,そのころから60年余りたった今,若い人たちを取り巻く社会環境や各自の考え方・価値観が大きく変わりました。そんな中で,光学のここがおもしろいと,とやかく言っても始まらないと思います。脇からこれがおもしろいぞと言われて同調するのではなく,自分自身でおもしろいと思わなければ何にもなりません。自分の興味があることや,やってみたいと思うことは,人に強制されるものではないと思います。私にできることは,それがおもしろいと思うのなら,こういうことをしたほうがいい,こんなこともちゃんと勉強しないといけないとか,それならほかにも似たような,こういう分野があり,これから注目されるかもしれない,といった助言のようなものだけです。
 しかし,「おもしろい」とは自分の道を進むうえでの必要条件に過ぎず,十分条件ではないことを肝に銘ずべきです。十分条件とは,目的を遂行するにたる自力が蓄えられていること,あるいは,適任の協力者が得られることです。十分条件が満たされないときは,まずもって自力の充実に努めることが大切です。
 最近,「夢をもって努力すれば夢はだれでも達成できる」といった言葉をよく聞きますが,これも十分条件を満たしていない一種のまやかしに過ぎません。これと関連してひところよく聞かれた“Publish or perish”という言葉を思い出します。これは私がシカゴ大学の院生だった頃からちらほら耳にし始めた言葉で,「1年に1つくらいしっかりした論文を出せないようならその分野から去るべきだ」くらいの意味だったと覚えています。しかし,1980年代頃から米国の大学や研究機関の運営者たちの間に競争的研究資金をとるうえで申請者の論文数がものをいう気運が広がってきたように思います。その結果,新人の採用に論文数を重視する傾向が強まり,徐々に全世界に広まっていきました。
 また資金を提供する側が重点分野を指定し,助成金を積み増す弊害も出てきました。これに対して学界からは,論文の細切れ発表を助長し論文の質の低下を招き,基礎研究の発展を阻害すると,猛烈な反発がありました。一方,コピー・ペーストで論文や単行本を量産したり,正統学会誌に採用されなかった論文を緩い査読基準で出版する商業誌が雨後の筍のように増殖して悪弊を助長しているのが現実です。こうした現状を打破するために,若い人たちだけでなく研究費を出す側も,当事者全員が協力してこの悪弊を打ち切り,正しい学術の発展に努めてほしいものです。
 好きなことに挑戦し,時間がかかってもきちんとまとまった論文を出すという意味では,私たちの時代は戦争の影響で金も物もなく大変でしたが,それなりに自由だったのかもしれません。
波岡 武

波岡 武

●波岡 武(なみおか たけし)先生 ご経歴
1950年 旧制東京文理科大学文理学部物理学科卒業 1953年 同科研究科前期3年終了 1953年 東京教育大学助手 1955年 シカゴ大学大学院入学 1959年 同校博士課程物理学専攻終了 Ph. D. in Physics 1959年 米国Kitt Peak National Observatory, Research Associate 1960年 米国AF Cambridge Research Laboratory Project Physicist 1965年 東京教育大学助教授 1977年 東北大学助教授 1980年 同校教授兼高エネルギー物理学研究所教授 1991年 東北大学名誉教授,米国Universities Space Research Association Senior Research Scientist, Center for X-Ray Optics, Lawrence Berkeley Laboratory Affliate Member, University of Maryland Adjunct Professor 1994-97年 米国Naval Research Asian Office Science Advisor 1998-2008年 日本原子力研究機構研究嘱託
●研究分野
真空紫外分光学,軟X線光学
●Optical Society of America Fellow, 日本分光学会名誉会員,日本放射光学会名誉会員

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