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光の幅広い応用の可能性を信じ,研究を通じた人材育成と成果の社会貢献(女子大発ベンチャービジネス)で次世代にバトンを渡す日本女子大学 小舘 香椎子

東大で光に出会ったことが人生のターニングポイント

聞き手:まず,光学分野に興味を持ったきっかけについてお話しいただけますでしょうか。

小舘:私は中野区立桃園第三小学校で,戦後の民主教育を志向する教育熱心で人間味あふれる先生方から初等教育を受け,2年生の担任として平塚とし子先生(元中野区教育委員長)の明快な授業と強烈なリーダーシップに女性教師へのあこがれを抱きました。自然科学への関心も,4年生から始まった,専科の教師の工夫された教材による実験授業と東京都の理科指定校として,月1回の実験授業への参加の機会を得たことによって増しました。そして,受験・進学した日本女子大附属中学校,高等学校でも,女子のみでのびのびとかつ切磋琢磨しながら過ごした環境と理科好きが集まった科学クラブや原子力発電の原理などに関する自由研究で,自然科学,特に物理学への興味がさらに高められました。迷わずに進学した日本女子大学家政学部の理学科(物理専攻)には,わずか6名の同級生しかいませんでしたが,3年生の文化祭で,秋葉原での電子部品の買い出しから導波管の作製,伝送の実証実験まで,理論を学び,実現することができ,物づくりの楽しさを知りました。
 卒業後,大学に残るようにと指導教授から誘いを受けましたが,なぜか助手の増員が見送られて結局,附属高校で物理の専任教諭として着任することになりました。高校教諭としての3年間は,とにかく全力投球で,女子が苦手な教科をわかりやすく楽しめる授業をと,それまで行われていなかった実験授業を取り入れるなどして心がけました。幸いにも,その年には,附属では初めてとなる10名を超える優秀な生徒たちが物理分野への進学を決め,その後の教師生活にいくばくかの自信となりました。3年間の高校教員生活の後に,今度こそ増員は確実ということで,退職願を出し,後任も決まった頃に約束されていた大学助手のポストがまたも流れてしまいました。まさに,働く場所を失ったのですが,幸い,心配してくださった女子大の先生の紹介で,東京大学工学部電子工学科の臨時雇用者として週3日の採用が内定しました。3月に入った頃,電子工学科で専任助手のポストが空き,至急後任を決めないとポストを没収されるので,助手採用の条件(教員経験者)を満たしているから,是非,専任助手の就任を引き受けてください,との夢のような連絡が主任教授からありました。振り返ると,これが,「研究者への道」に繋がる私の人生のターニングポイントでした。
 そうして,幸いにもデバイス系の神山雅英先生の研究室に配属され,そこで初めて生涯の師と研究テーマとなる「光」に出会いました。神山先生は,理化学研究所で,原子分子の分光学の先端的研究を手掛けられ,電子工学科へ移られてからは,量子エレクトロニクスの研究に取り組んでおられました。この分野では,理学部の霜田光一研究室,生産技術研究所の斉藤成文研究室がすでにレーザー研究を始めていらしたのですが,神山研究室では,物理的手法を用いつつ,電子工学への適用を図ることを目指して,活発な研究が個性豊かな助手・大学院生達により行われていました。
 私にとって特に幸運だったのは,この神山研究室で,その後,光量子エレクトロニクスの分野をリードする非常に優秀な若い研究者達との出会いに恵まれたことでした。神谷武志先生(東京大学名誉教授)は助教授として,伊澤達夫先生(千歳科学技術大学理事長),故 武藤準一郎先生(慶應義塾大学名誉教授),森川滝太郎先生(東洋大学名誉教授),故 氏原紀公雄先生(電気通信大学名誉教授),木村忠正先生(電気通信大学名誉教授)といった後の研究者が大学院生として机を並べ,助手の小林重昭氏らとルビーレーザー,ヘリウムネオンレーザー,アルゴンレーザー,炭酸ガスレーザー,半導体レーザーなどを手掛け,応用研究への模索が始まっていました。
 それまで,光学を含めて,物理学の基礎も十分に学んで来ていなかった私は,キッテルの固体物理の英文購読の自主ゼミへの参加から,青木先生の電子物性論,小瀬先生の応用光学特論,小穴先生のレンズ設計論などの講義まで,院生の方々とともに参加しました。さらに,工作室で旋盤によるミラーホルダーなどの「装置作り」や,数値解析のためのプログラミングの習得など,研究創成の基礎をしっかりと学んだ中身の濃い貴重な5年間となりました。実際の研究ですが,神山研究室では,当時,レーザー応用研究も対象とされており,私は,その1つとしてレーザー光できれいな回折・干渉実験ができることから,X線回折を解明する2次元格子モデルを用いた光シミュレーションの実験からスタートし,X線回折像と対比しながら結晶構造の解析に適用しました。それが「一枚の写真」のコーナー(O plusE 1994年1月号)にも掲載していただいた「2次元格子模型のレーザー光による回折」です。
 そして,この研究は「テーマとしてそう古くもなく応用分野もあり,競争相手がそう多くないという点で,子育て中の小舘さんに適している」と神山先生が勧めてくださった回折格子を用いた光計測の研究へと繋がることになりました。2枚の透過型回折格子を傾けて重ねるとできる粗い縞はモアレ縞としてよく知られていますが,周期格子の自己結像作用であるフーリエ・イメージ効果を取り入れ,フレネル領域で2枚の回折格子を横にずらすと周期的に透過光が点滅すること,また,そのコントラストは2枚の格子のギャップによって変化するという現象を見出して,精密変位計測器への適用の検討を行いました。さらに,独学でFORTRAN言語を学習し,数値計算によりコントラストを決める要因であるコヒーレンスを考慮した理論式を導きました。このテーマは,物理工学科から赴任された神谷武志先生に興味を持っていただき,私が日本女子大に教員として戻った後も継続して,ご指導いただきながら,長期に渡って携わることとなりました。結果的には,1970年代のマイクロオプティクスの黎明期から,回折光学素子の応用を目指した基礎研究に関わってきたことになります。また,回折格子をテーマとする科研費の総合研究や光エレクトロニクスの特定研究に参加をさせていただく機会も得て,まとまった額の研究費と活力ある研究の手法を学ぶことができました。こうしてみると,大変長いつながりではありますが,私の光との出会いは,たまたま東大の電子工学科の専任助手のポストが空くというチャンスを得て,先端的なレーザー研究をやっている研究室に配属されたときになるのです。

聞き手:運命的な,導かれるままに歩んでいたら「光に出会った」という感じですね。

小舘:そうですね。それに,神山先生のご指導は,こういうことをやらなければ駄目だという枠組みが全然ありませんでした。「自由な発想で大いにやりなさい」と,非常に個を尊重してくださいました。同時に,独自性のある研究を築いて,仲間として認めてもらうための覚悟と努力が必要とされていると感じました。一方,給与をもらっている助手の立場の私が,月謝を払っている院生の方たちに教えてもらえる環境にいることへの感謝が,前向きになれた1つの要因でもあり,なににも増して,研究室での「光の研究」は,際限のない興味の宝庫で,楽しい時間でした。そして,1970年,30歳のときに,ようやく初めての論文がJJAPに採択され,研究者としては非常に遅いスタートだったと言えると思います。
 この後,この2重回折法の精度向上のために,設計,作製を行い,それらを用いた精密変位計測実験と数値解析など,当時の作製技術の向上による微細化などを含めたテーマを深く追求し,1981年に自分の予想より早い段階で博士論文をまとめることができました。博士号を取ってやっと一人前という世界ですから,その年も大きな区切り,新たなスタートとなりました。
 回折光学素子は,半導体レーザーの実用化に伴い,デバイス作製技術の高性能化と大型コンピュータの出現による設計技術の高度化などと相まって,小型デバイスとしての応用分野が広まり,新しいアイデアによる設計・作製・システム応用があり,競争の多い興味深い分野となっていきました。神山先生に勧めていただいた時には想定されていなかった展開でした。ただ,おかげさまで,研究テーマに困るようなことはまったくなく,光相関法によるパターン認識,アレイ導波路型回折格子を用いた分光センサー,すばる望遠鏡用分散素子グリズムの開発,ホログラフィック光メモリ,厳密結合理論による微細回折格子の解析などの研究開発を研究室の学生たちと展開することができました。まさに,神山先生から教えていただいた「流行を追うのではなく,自分で考え,実行することが道を拓く」,その言葉通り,回折光学素子の研究を自分なりに全うすることができたと,感謝の気持ちを込めて,書籍にもまとめました(写真参照)。
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小舘 香椎子

小舘 香椎子

●小舘 香椎子(こだて かしこ)先生 ご経歴
1963年 日本女子大学家政学部家政理学科一部卒業 1988年 日本女子大学一般教育課程教授 1992年 同理学部数物科学科教授 2009年 日本女子大学名誉教授現在 ㈱Photonic System Solutions(電通大認定ベンチヤー)代表取締役会長,浜松ホトニクス㈱社外取締役,㈳日本国際協力センター理事,応用物理学会フェロー, SPIEフェロー,他 歴任 日本学術会議会員(第21期・22期),応用物理学会副会長,(独)科学技術振興機構男女共同参画主監,電波監理審議会委員(総務省),総合科学技術会議専門委員(内閣府),外部評価委員(日本学術振興会),他
●研究分野光エレクトロニクス(回折光学素子の基礎と応用,光情報処理),物理教育
●主な活動・受賞歴等
文部科学省「ナイスステップな研究者」選定, 文部科学大臣表彰 科学技術賞,内閣総理大臣表彰「男女共同参画社会つくり表彰」,応用物理学会業績賞, 櫻井健二郎記念賞,他

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