【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

光の幅広い応用の可能性を信じ,研究を通じた人材育成と成果の社会貢献(女子大発ベンチャービジネス)で次世代にバトンを渡す日本女子大学 小舘 香椎子

研究も子育ても両方継続していたら,ロールモデルに

聞き手:小舘先生は研究をしながら,育児も同時にしていらっしゃったのですよね。

小舘:私は神山研究室に助手として採用された年に結婚し,3人の子どものうち,長女,長男の2人は東大時代に出産しました。第2子の出産時には,神山先生に退職の相談をしました。すると「公務員の規定なのだから気にしないで休みなさい。子育てに協力してくれる環境にいるのに続けられないことはないでしょう。絶対無理と感じたときに考えなさい」と逆に励まされました。当時は実家に同居し,昼間は母に育児を頼んでいましたが,小児ぜんそくの長女の通院や家事,育児と自分の時間とのバランス作りなど,仕事をもつ女性なら誰でもぶつかる悩みを抱えていました。神山先生に背中を押されて初めて,この恵まれた環境を活かしていこうと決意したところがあったと思います。先生は,50年前の当時,極めて先進的な素晴らしい男性指導者,メンターだったと思います。光と出会って,研究室の指導者と若い研究者に囲まれて,自分の光の研究が,ゆっくりではあるものの,仲間に入れていただきながら,少しずつステップアップを図ることができたのです。
 ですから,その後,母校に戻って自分の研究室をもった後も,似たような環境作り,つまり,学生たちが研究を楽しく続けていけるような環境を,ということは常に心がけていました。そのことも影響しているのかと思いますが,研究室の卒業生たちは非常に仲が良くて,何かといっては卒業後の今でも集まっています。それに,結婚して子育てをしていても,ほとんどの方が仕事を辞めていませんね。「先生が子育ても仕事も両方やっていたのだから,私たちもできる」と思うようです。意識して,というほどではなかったのですが,気が付いたらロールモデルにもなっていたのかもしれません。

聞き手:お集まりになると,お子さんの話でも盛り上がりそうですね。

小舘:最近では,子連れの集まりも多く(次頁写真参照),外で会う際には,会場の中に子供たちの遊び場も用意してもらっています。子育ての悩み,ワーク・ライフ・バランスのとり方,職場の課題などを話して,集まるたびにすごく元気が出たと言って帰っていきます。光関連分野から離れた職場の人たちでも,光をベースにして,学部・修士時代などに一緒にみんなで連携しながら研究をやった,ということが現在のすごいパワーになっているようです。
 その意味でも光ってすごいですよね。やっぱり光の持つ明るさも影響していると思いますし,目に見えるものだから,ビジュアルに訴えるし,パワーになるようです。人や社会というものは移ろいもあり,とらえどころがないものだけれど,光も含めた自然現象や生物や物質は違うでしょう。サイエンスはほとんどの成果の追試ができて,立証が可能ですから,これほど確たるものはありません。それに,領域はキリがないくらいに幅広くて,探求したいことはたくさん出てきます。
 私が1つ誇りに感じているのは,130人を超える理系女性が,小舘研究室から卒業していったということです。家政学部には博士課程がなかったので,1992年に理学部ができて,小舘研究室から博士号をとって巣立ったのは4名だけですが,それ以前から,東工大,早稲田大,豊田工大などの大学院に進んだ卒業生が,10人ほど学位をとっています。ですから,全部で14名,修士の学位は30名,これだけの人数の光分野の女性研究者を育成できたということは,光に出会ったからこそでしょう。アカデミアでは,2名が教授,3名が准教授となっています。
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小舘 香椎子

小舘 香椎子(こだて・かしこ)

1963年 日本女子大学家政学部家政理学科一部卒業 1988年 日本女子大学一般教育課程教授 1992年 同理学部数物科学科教授 2009年 日本女子大学名誉教授現在 ㈱Photonic System Solutions(電通大認定ベンチヤー)代表取締役会長,浜松ホトニクス㈱社外取締役,㈳日本国際協力センター理事,応用物理学会フェロー, SPIEフェロー,他 歴任 日本学術会議会員(第21期・22期),応用物理学会副会長,(独)科学技術振興機構男女共同参画主監,電波監理審議会委員(総務省),総合科学技術会議専門委員(内閣府),外部評価委員(日本学術振興会),他
●研究分野光エレクトロニクス(回折光学素子の基礎と応用,光情報処理),物理教育
●主な活動・受賞歴等
文部科学省「ナイスステップな研究者」選定, 文部科学大臣表彰 科学技術賞,内閣総理大臣表彰「男女共同参画社会つくり表彰」,応用物理学会業績賞, 櫻井健二郎記念賞,他

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