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光の幅広い応用の可能性を信じ,研究を通じた人材育成と成果の社会貢献(女子大発ベンチャービジネス)で次世代にバトンを渡す日本女子大学 小舘 香椎子

大学の研究成果をもとに,社会貢献を(大学発ベンチャーを起業)

小舘:私は,いま株式会社Photonic System Solutions(PSS),電通大学認定ベンチャーの会長を務めています(20016年まで代表取締役)。そこにつながる研究の基盤は,女子大在籍時に始めた光相関システムの研究でした。最初はJTC(Joint Transform Correlation)という光相関システムを組んで顔認証の研究を始めました。その後,新たな光相関アルゴリズムの研究とホログラフィック大容量ディスクを融合させ,NEDOなどの支援を受け,日本で初めて自動・小型光相関コンピュータ(FARCO)を構築しました。現在も,渡邊研究室(電通大)では,実用機の実現に向けての開発を進めています。
 インターネットの普及と共に,WEB上で配信される画像や動画,音楽ファイル,音声データなどのデジタルコンテンツの需要が増大しています。特に,動画共有サイトの利用は人気の広がりを見せている一方で,違法アップロード・ダウンロードによる著作権侵害が大きな問題にもなっています。本来は,これらの認証には,FARCOを適用するのが,大容量・超高速の特徴を発揮できるので望ましいのですが,残念ながら実運用化にはもう少し時間がかかります。そこで,PSSでは,光相関演算システムFARCOの画像識別アルゴリズムの部分を応用し,検索対象となる登録動画からWEB上の動画を自動検索するソフトウェア「自動動画識別による著作権管理システム(FReCs:Fast Recognition Correlation System)」を開発しました。このシステムは,長時間大容量動画に対応でき,例えば,30分アニメ番組で1本約0.7秒,52本で約1.6秒と高速照合が可能となっています。
 PSSでは,2008年度に経済産業省による「自動動画識別技術を用いた海賊版実態調査研究」を受託し,FReCsを用いて海賊版動画の実態をWEBサイト名とともに具体的な 数値として示しました。また,設立から現在までに,経済産業省や総務省などの国のプロジェクトに加えて,TV局など延べ50社を超える事業者にサービスを実施しています。
 このPSSの設立により,研究成果の特許を維持し,これまでの光の研究成果を社会還元することができました。資本金860万円の小さなベンチャーですが,この9月で第12期になり,昨年は,10周年を関係者と共に祝うこともできました。女子大からスタートした小規模ベンチャーで,10年間継続できたことは,素晴らしいことで,関係各位のご支援に改めて感謝したいと思っています。今後も地道な活動の積み重ねで,より社会貢献ができる課題に取り組みたいと考えています。
 そんなわけで,私が現在力を入れているのは,人材育成と研究の発展形としてのベンチャーを通じた研究成果の社会還元といえるかと思います。

いたるところにある光を自分の興味につないでいくのが大事

聞き手:女性研究者に向けてメッセージをお願いします。

小舘:「きらめくチャンスをつかまえて!」という本を次男との共著で出版しています(前述の写真,右から2番目参照)。和書の前に,イギリスのRoutledge社から洋書を出したのですが,この執筆作業は,ロンドン大でPhDを取って,現在はアイルランドのダブリンで国立大学の教員をしている次男と,専門分野を越えて,協力して行いました。彼は小さい頃,女子大の研究室にもしばしば,連れていっていたので,「僕は半分ぐらい女子大で育ったかな」と言っています。現在,専門は比較社会政策という分野ですので,日本の女性になぜ研究者が非常に少ないのか,特に理工系分野が世界的にも際立って少ないことに関心を持ち,私とディスカッションをしながら,執筆しました。女性の理工系研究者の歴史から,日本の政策転換に至った背景や政策のこれまでの効果,我々が行ったアンケート調査結果などをまとめたものです。和書の方は,洋書の翻訳というよりも,女子高生やそういった年ごろのお子さんをお持ちのご両親にも読んでいただければ,ということで新たに書いたものになりましたが,小舘研究室の卒業生や学会関係者にも,キャリアパスを書いていただくなどご協力いただきました。
 メッセージを,ということですが,女性は粘り強く,仕事が丁寧です。そういうところは理工系に不向きどころか,むしろ向いていると思います。それに,あきらめなければ未来は開けます。興味をもち,楽しみながら自己研鑽を継続し,前向きに進んでいってください。そして,ゆっくりとした歩みでいいから継続をしてください。研究のなかで「己の場」を創る努力と同時に,連携する大事な機会を得るために,仲間を大事に励まし合いながら,共に生きる環境を創る努力をすることが大事だと思います。今をつかんで明日につなげていってほしい,リレーをしていってほしいと思っています。
 電通大の渡邊研究室からは,すでに今年3月に博士号を取得し,公立大の助教になった卒業生が生まれました。つまり,早いもので,私から見て3代目がもう育っているのです。「光」というテーマは研究対象がつきないところが本当に魅力です。
 女性研究者に対しても,今がチャンスであると感じています。日本では,専門性をもち働く女性や理工系に進む女性の割合は,世界的にみてもまだまだ少ない状況です。少子高齢化もあるので,大学を含む教育界,学会,産業界,さらに政府と,理工系女性の支援体制を築く努力が推進されています。それでも,女性の研究者はまだ全体の15.7%で,先進国の中では最低レベルです。ただし,トレンドを見ると,日本の女性研究者数(実数)の推移は増加を続けていて,平成29年3月31日現在,14万4,100人で,過去最多を更新しています。研究者に占める女性の割合を2020年に20%とすることが目標なので,達成できるように様々な取り組みが進んでいけば,と願っています。もちろん,数が増えればいいというだけではなく,(研究やリーダーシップ,個人個人が能力を発揮できたり,満足できるという生活の)質もとても大切です。
 そこで,男性の皆様には,女性研究者の育成と環境構築のために男性研究者にかけるのと同じ程度の支援やサポートをお願いしたいと思います。次世代を担う若者を育成する新しいイノベーション構築の場を作って,きらめく人材の宝庫を次の代へとつなげていくことがとても大切です。私自身も神山先生のような師に出会うことができましたが,本人だけではなくて,周りの支援が欠かせません。特に子育てをしているときなどは,理解や具体的なサポートもですが,精神的なサポートも必要です。今すでに指導的立場にある女性研究者たちともぜひ連携しながら,未来の研究者育成にご尽力いただきたいと思います。
小舘 香椎子

小舘 香椎子

●小舘 香椎子(こだて かしこ)先生 ご経歴
1963年 日本女子大学家政学部家政理学科一部卒業 1988年 日本女子大学一般教育課程教授 1992年 同理学部数物科学科教授 2009年 日本女子大学名誉教授現在 ㈱Photonic System Solutions(電通大認定ベンチヤー)代表取締役会長,浜松ホトニクス㈱社外取締役,㈳日本国際協力センター理事,応用物理学会フェロー, SPIEフェロー,他 歴任 日本学術会議会員(第21期・22期),応用物理学会副会長,(独)科学技術振興機構男女共同参画主監,電波監理審議会委員(総務省),総合科学技術会議専門委員(内閣府),外部評価委員(日本学術振興会),他
●研究分野光エレクトロニクス(回折光学素子の基礎と応用,光情報処理),物理教育
●主な活動・受賞歴等
文部科学省「ナイスステップな研究者」選定, 文部科学大臣表彰 科学技術賞,内閣総理大臣表彰「男女共同参画社会つくり表彰」,応用物理学会業績賞, 櫻井健二郎記念賞,他

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