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偶然もあとから見るとほとんど必然千葉大学教授 尾松 孝茂

実験装置も自作。でも,めちゃくちゃ楽しかった

聞き手:工学分野に進まれたきっかけというものと,また,工学に魅了された理由などをお聞かせください。

尾松:私は小学校のころからカメラにはまった,カメラ小僧でした。それで光学に進んだと言っていますが,実は,東京大学の一年生のときに物性研の見学授業で見た,緑色の超短パルスレーザーが,非常にインパクトがあり,光は面白いなと思ったのがきっかけです。よくわからないのですが,10のマイナス1乗秒ぐらい光る,ピコ秒で光るといった話をされて,何かわからないけれどもカッコいいなと思ったのです。それと,他に見た極低温物理や高磁場物理があまりピンとこなかった。一番しっくりきたのがショートパルスレーザーでした。
 あともう一つは,当時あった科学技術を紹介する『サイエンス(現:日経サイエンス)』という雑誌があり,そこでホログラムの話を取り上げていたのですが,テクノロジーとして面白いなと思ったのが,光をやろうと思った本質的なきっかけかもしれません。
 それと,もう一つ忘れてはいけないのは,その当時,東大の物工の教授だった田中俊一先生です。東大の物工では理学部の物理と同じような講義をします。今の講義では,学生がわからないと先生の評価が下がりますから,易しくわかりやすくというのを心掛けて説明しますが,その当時の大学の先生は,わからないやつが悪いのだという風潮でした。でもその中で唯一,田中俊一先生の光学の授業だけはわかりやすかった。他の授業に比べて圧倒的にわかりやすくて,成績もその光学だけは良かった。他はもうボロボロでしたが。それでもう光しかないなと思ったこともあります。そこでは光双安定素子に関する研究をしていました。
 大学を卒業したあとは光学メーカーのオリンパスに3年ほどいました。光の研究ができるかなと思ったのですが,少し思っていたのとは違いました。色彩画像処理でしたが,個人の主観で決まるマニアックな世界に思えていまい,やはりもう少し物理的な光を勉強したいなと思い大学院に入りました。
 東京大学生産技術研究所を選んだのは,オリンパスで購読していた日本光学会の『光学』という雑誌に黒田和男先生がレーザーに関する記事を書かれていて,それを見て面白そうだなと思ったのがきっかけです。その当時の教授は小倉磐夫先生でした。小倉磐夫先生といえばレンズ設計の第一人者ですが,私は全然存じ上げませんでした。本当に(笑)。小倉先生と黒田先生は一緒の研究室で,名目上の指導教官は小倉先生で,実質的には黒田先生に教わりました。
 東大生研では銅蒸気レーザーをずっとやっていましたが,そこでの研究はめちゃくちゃ面白かったですね。何もなかったですけれども。というか,学生は私1人しかいなかったこともあり,何でも1人でやっていました。研究テーマも,実験をして思い付いたことを,「こういうのやりたいんだ」と黒田先生に言って「いいよ」みたいな感じでやらせてもらえて。あまり物はなくて,実験装置も自作ばかりでした。でも,めちゃくちゃ楽しかった。一から全部自分で作り上げる,ここの部分は絶対自分がやってやるんだというコミットメントが明確にあると楽しくて。そういう意味では,大学院は本当によかったですね。
 第二高調波発生がテーマで,当時は今のような全固体レーザーの紫外光がなかったので,ガスレーザーを波長変換していました。そのための効率のいい非線形光学結晶だとか,集光光学系の設計とかいろいろしていました。それだけだとエンジニアリングで終わりでしたが,やっているうちに普通の第二高調波の理論では説明できない結果が出てきて,空間的コヒーレンスの効果を取り入れた第二高調波発生の理論を考えたりしました。「必要は発明の父」と言いますか,自分の考えた理論で実験結果をキチンと説明できたときは,本当にうれしかったですね。だから,そういう意味で非常に完成度の高い仕事だったかなと私は思っています。今論文を見直しても4割ぐらいが理論パートで,あとの6割ぐらいが実験パートで,非常にバランスがよくていい仕事だったと思っています。
 そのときに,もう一つうれしいことがありました。オーストラリアのMacquarie大学にJim Piperという先生がいまして,同じ時期に同じような研究をしていたのです。そこの学生だったDavid Couttsというニュージーランド人から手紙がきたのです。当時はまだメールなんてありませんでしたから,エアメールで,おまえの論文を読んだんだが,ここがわからない,それについてどう思うかみたいな手紙がきて,数回やりとりしました。自分の書いた論文を読んでくれている人が海外にいるのがわかって非常にうれしかったですね。当時は論文の投稿も全部エアメール,論文も紙媒体しかない。今のようにPDFでダウンロードできるわけではなく図書館まで行ってコピーとらない限り読めない環境でしたから,質問をエアメールでもらったのは非常にうれしかったです。そのDavid Couttsとは今でも付き合いがあります。もう20年ぐらいになるかな。この間も彼がMacquarie大学で教授になる推薦状を書いてくれと言われたりしました。

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尾松 孝茂

尾松 孝茂

●尾松孝茂(おまつ・たかしげ)先生のご経歴
1960年 大阪府生まれ 1983年 東京大学 工学部 物理工学科卒 1983年 ㈱オリンパスに入社 1986年 ㈱オリンパスを退社 1986年 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 1992年 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修了 博士(工学) 1992年 千葉大学 画像工学科 助手 2006年~ 千葉大学 融合科学研究科教授 2014年~ 千葉大学 融合科学研究科研究科長
●研究分野
量子エレクトロニクス、非線形光学、応用光学
●主な活動・受賞歴等
2016年 科学技術分野の文部科学大臣表彰 2016年 双葉電子記念財団賞 2013年 応用物理学会フェロー 2016年 The Optical Societyフェロー OSA Director At Large Optics Express,Deputy Editor Scientific Reports,Editor

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