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偶然もあとから見るとほとんど必然千葉大学教授 尾松 孝茂

いい人に恵まれると研究は本当にいい方向に発展する

聞き手:最後に光学分野の若手技術者や学生などに向けて光学分野の面白さやメッセージをお願いします。

尾松:物理や光は確立された学問です。それで,どうしても何か新しい話が出るとそこに飛び付くことが多い。例えば,この10年くらい光学分野ではやっているキーワードが3つぐらいある。プラズモニクス,メタマテリアル,そして少しブームは過ぎたけどテラヘルツ。これらに飛び付くことはいいのです。だけど,はやりものに飛び付くということはどういうことか? 研究者のコミュニティーが出来上がっていて,研究者の母集団はすごく大きいということなんです。つまり,新規に参入するにはキチンとしたストラテジーを持たないといけない。
 日本の若い研究者たちは優秀でよく勉強しているがゆえに,先行している海外の研究者と同じことをやろうとする。われわれは,インターネットもなかったので情報も少なかったせいか知らぬ間に独自性を身に付けているところがあって,あまり海外の研究者と類似するようなことをやることはなかった。今の若い人はよく勉強し過ぎていて,逆に海外のフォロワーになっているところがある。論文はその瞬間は書けるかもしれないけれども,特徴あることをやらない限り生き残れない。
 今は中国が爆発的に論文を書いています。そもそも中国の研究者はアメリカ帰りとかヨーロッパ帰りが多くて,トレンドに敏感で,プラズモニクス,メタマテリアル,テラヘルツの論文をどんどん書いている。執筆スピードから見たら彼らのほうが圧倒的に早い。そして金も持っている。中国と同じやり方で競争しても,とても勝ち目はないと思います。だから,あえて今はやっていない,だけど,ひょっとしたら潜在的にはやるかもしれない――それはもう自分の勘に賭けるのかもしれないけれども,賭けないといけないのかもしれないけれども,あえてそういうこともやってみるほうがいいのではないかな。同じプラズモニクスをやるにしても少し重心をずらしてみることが重要な気がします。
 今の若い研究者を見ていると,論文の数だけはめちゃくちゃあるけれども,大きな組織のストラテジーの中でプラズモニクス,メタマテリアル,テラヘルツをやっているような気がする。本当に自分が好きでやっているのだろうかと。大学なんかだと予算がないわけです。その中で本人が独り立ちして研究していくためには,自分の好きなことを見つけて特徴ある研究をやらないと。結局,若いうちに業績のある人というのは,大きなグループにいた人が多い。その人たちはもともと大きなグループで湯水のようにお金を使っていたわけで,その人たちが1人でやったときに,本当にオリジナリティーがある研究ができるのかと。
 若手の育成というのは重要なミッションです。若い人を育て,潜在能力を開花させなければいけませんが,それはお金を与えることだけではないと思います。ポストを与えることでもないと思います。おそらく,モラトリアムの時間がちょっとあって,すぐに結果が出なくてもいいから,何かちょっと自分たちで苦労をして考える時間を与えてあげることかもしれません。
 人というのは結局,本人が意識しない限り成長しないので,そのためには,あえてお金もない,何もないような環境に入るほうがいいのかもしれません。もちろんずっとそれではつぶれてしまうので,そこはバランスが必要でしょうが。
 若い研究者は恵まれ過ぎていてかわいそうかもしれない。ポスドクをやっていて大きな組織にいると,そこで論文ができる。それを自分の実力と勘違いしてしまう場合があります。2~3年ポスドクをやるのはすごくいいことだと思いますが,大きな組織で論文が出ることと自分に実力があるということとは違いますから。
 光には,まだまだ多彩な面白いことがいっぱいあります。私がやっている光渦の角運動量も,まだまだこれから面白い研究がいっぱい出てくると思います。ちょっとマイナーな研究テーマでもやってみるというのが重要だと思います。
 それと,やっぱり研究は人の縁もあると思います。だから,いい人に恵まれると研究は本当にいい方向に発展すると思います。そういった人やチャンスを見逃さないことも大切ですね。
尾松 孝茂

尾松 孝茂

●尾松孝茂(おまつ・たかしげ)先生のご経歴
1960年 大阪府生まれ 1983年 東京大学 工学部 物理工学科卒 1983年 ㈱オリンパスに入社 1986年 ㈱オリンパスを退社 1986年 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 1992年 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修了 博士(工学) 1992年 千葉大学 画像工学科 助手 2006年~ 千葉大学 融合科学研究科教授 2014年~ 千葉大学 融合科学研究科研究科長
●研究分野
量子エレクトロニクス、非線形光学、応用光学
●主な活動・受賞歴等
2016年 科学技術分野の文部科学大臣表彰 2016年 双葉電子記念財団賞 2013年 応用物理学会フェロー 2016年 The Optical Societyフェロー OSA Director At Large Optics Express,Deputy Editor Scientific Reports,Editor

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