【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

日本の次世代のため 日本の光学産業に何らかの貢献をしていきたいチームオプト株式会社 代表取締役社長 槌田 博文

レンズ設計の革命を目指す

槌田:その後,研究部署に異動を命じられました。そこでは,不均質レンズ(分布屈折率レンズ)を担当することになりました。ですが,私はカメラの開発をしたくて入社したのに,開発ではなく研究,それもよくわからないものの研究をしろといわれたので正直嫌でした。しかし会社組織ですから嫌だといってもいられないので,あきらめてというか気を取り直して,どうせやるなら世界トップレベルのものをつくってやろうと考えました。
 通常のレンズは全部均質レンズですが,不均質レンズ(分布屈折率レンズ)は,レンズ設計の革命といわれていて,実現すれば性能がものすごくよくなり,枚数は減るし,小さくなるし,もういいことずくめでした。それで,どうせやるならレンズ界に革命を起こしてやろうじゃないかと心を決めました。

不均質レンズで初めて試作したレンズでの記念撮影(中央が著者)

初めて試作したレンズ系(斜線部が不均質レンズ)


 レンズそのものの作製は,化学屋の同僚が担当しましたが,それ以外の部分,光学設計から測定,評価まで自分たちでやらなければならず,幅広く手掛けました。このテーマで10年研究しました。最初はまともなレンズ設計もできず,レンズも作れないし,測定もできませんでした。10年かけてレンズ1枚で40万画素レベルの写真が撮れるものを実現しました。学会レベルでは,先進的な研究成果も出せ,論文を書いたり,国際会議で発表もしましたが,製品化まではいけずに,残念ながらテーマとしては中止になりました。
 その後,新しい技術を担当する部署のグループのグループリーダー(いわゆる課長職)となりました。ちょうどそのころ社内で「オリンパスの光学技術が最近弱体している」という声が出たことがあり,私は技術を担当している人間として「何?そんなことは言わせない」という気持ちが芽生えてきて,何とかしてやろうと,逆に奮起しました。
 そこでも「レンズ設計の革命」という命題は常に持っていて,結構リスキーなテーマも手掛け,自由曲面を使った撮像系にもチャレンジしました。これは,製品にもなり記者発表もして,一時的には話題となりました。

「自由曲面プリズム方式」薄型レンズユニット

「自由曲面プリズム方式」模式図


 そうこうして部長になりというところで,55歳になったら会社を辞めようと思うようになりました。これはある研修で,55歳ぐらいで辞めないと,次のことができないと講師の方がおっしゃっていたのです。最近は60歳や,70歳でも皆さんすごく元気ですから,もし70歳まで自分のやりたいことをやって働こうと思ったら,逆算すると55歳ぐらいで辞めれば15年間あるなと。そういった人生設計を考えるのも手だと思い,55歳を一つの区切りとして考えたのです。それで55歳になったときに辞めさせてくれと会社に申し出たら止められました(笑)。あと1年だけということで,1年延びて56歳になった月に辞めました。

<次ページへ続く>
槌田 博文(つちだひろふみ)

槌田 博文(つちだひろふみ)

1958年 岡山県生まれ 1984年 大阪大学工学研究科応用物理学専攻修士修了 1984年 オリンパス光学工業(株)(現オリンパス(株))入社 2001年 博士号取得(工学,大阪大学,論文博士) 2014年 オリンパス(株)退社 2012年 岡山大学非常勤講師 2015年 チームオプト(株)設立,代表取締役社長に就任
●研究分野
レンズ設計,光学設計理論
●主な受賞歴等
2007?2011年 日本光学会光学設計研究グループ代表 2008?2009年 応用物理学会理事 2000年 光設計研究グループ光設計特別賞 2008年 文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)
●チームオプト株式会社について
チームオプト株式会社は日本の光学産業発展に貢献したいとの理念を掲げ,2015年10月に設立した光学技術コンサルタント会社。光学メーカーや研究機関等で光学技術についての豊富な経験を積んだメンバーを集め,光学設計(カメラ,顕微鏡,光ピックアップ,照明用レンズ,ズームレンズ,回折レンズ等)はもちろん,光学理論,光学測定評価,光学ソフトウエア,先端光学技術など多岐にわたるコンサルティングや教育を行う。URL:http://www.team-opt.co.jp/

私の発言 新着もっと見る

本誌にて好評連載中

私の発言もっと見る

一枚の写真もっと見る