何か新しいものを作っておくと,誰かが面白い応用を考えるものです東京工業大学 学長 伊賀 健一
研究で大事なのは小さな達成感の積み重ね
聞き手:1979年の学会で,面発光レーザーが液体窒素温度でパルス発振したことを発表された時,「発想は面白いが実用化には厳しい」との評価だったそうですが,面発光レーザーの研究をやめようと思われたことはありませんでしたか。伊賀:それはありませんでしたが,ものになるまで時間がかかるだろうという思いはありました。しかし最初に困ったのは,この当時は半導体結晶成長にも液相成長装置しかありませんし,より平坦な薄膜ができる分子ビーム成長装置などを購入する資力もなく,「面発光レーザー」という原理そのものが駄目なのか,実現するのに必要な技術がそろっていないだけなのか,ということでした。ですから,うまくいくかどうかが分からないと言ったほうがいいかもしれません。ただ,野球で言えば,ホームラン狙いで三振ばかりしていたのでは試合に出してもらえませんから,三振しても振り逃げで出るとか,何とか塁に出ないことにはやっていけません(笑)。従って,学界も同様で,論文も出せずに学会発表もできないのではプロとしてやっていけませんから,一方で理論の研究をするなどの努力をしていれば,それなりに成果がついてくるものです。
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1988年当時の研究室。面発光レーザーの室温連続動作を達成した直後の伊賀先生(右)と小山二三夫先生(左)/写真提供:伊賀先生
聞き手:理論的には間違っていないと確信できたのですね。
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1988年当時の研究室メンバー。面発光レーザーの室温連続動作を達成したころ/写真提供:伊賀先生
聞き手:研究成果への不安よりも,探究心のほうが勝っていたのでしょうか。
伊賀:その時々で小さな達成感があります。レーザーがピカッと光るとか,そういうのは学生諸君にとっても,私たちにとっても非常に感動的です。研究をやっていて,そういう達成感の積み重ねがすごく楽しいですね。大変ですけど。 <次ページへ続く>
![伊賀 健一(いが・けんいち)](https://www.adcom-media.co.jp/wp-content/uploads/2012/10/remark40_1.jpg)
伊賀 健一(いが・けんいち)
1940年広島県出身。1963年東京工業大学理工学部電気工学課程卒業。1965年同大学院修士課程修了。1968年同博士課程を修了し工学博士に,同年精密工学研究所勤務。1973年同助教授に就任,同年米ベル研究所の客員研究員兼務(1980年9月まで)。1984年同大学の教授に就任。1995年同大学精密工学研究所の所長併任(1998年3月まで)。2000年同大学附属図書館長併任(2001年3月まで),同大学精密工学研究所附属マイクロシステム研究センター長併任(2001年3月まで)。2001年3月定年退職,同大学名誉教授。2001年4月日本学術振興会理事(2007年9月まで),工学院大学客員教授(2007年9月まで)。2007年10月東京工業大学学長就任,2012年9月末退任。●専門等:光エレクトロニクス。面発光レーザー,平板マイクロレンズを提案。高速光ファイバー通信網などインターネットの基礎技術,コンピューターマウス,レーザープリンターのレーザー光源などに展開される光エレクトロニクスの基礎を築く。応用物理学会・微小光学研究グループ代表。日本学術会議第19,20期会員,21期連携会員。町田フィルハーモニー交響楽団のコントラバス奏者,町田フィル・バロック合奏団の主宰者でもある。
●1998年朝日賞,2001年紫綬褒章,2002年ランク賞,2003年IEEEダニエル E. ノーブル賞,2003年藤原賞,2007年 C&C賞,2009年NHK放送文化賞ほか表彰・受賞。