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ものづくりの才能は実践により培われる三鷹光器(株) 中村 義一

太陽光で水を作る

中村会長:クリーンエネルギーを作る政府のプロジェクトにも参加しまして,集光装置で集めた太陽光で石炭と天然ガスから石油代替燃料のメタノールを作る装置をつくりました。石炭と天然ガスからメタノールをつくるためには1200~に加熱しないとダメです。この装置を6基ならべると1200~までいきます。この事業をスタートにしたら「そういうのを作られたら,ガソリンが売れなくなる」と石油業界に怒られまして,ちょっと腹が立ったもので,「そういうことを言うなら,この仕事は経産省に返します」と言って止めてしまいました。しかし,ただ返したのでは面白くないので,その装置を応用して海水から真水をつくることにしたのです。これは今,中近東で事業化しようとしています。これがあれば水不足の心配がなくなります。この装置は12V,1Aの電源で動きます。コンピューターも何も使ってないのがミソです(図1)。

図1 自律型太陽集光装置

聞き手:機械的にということですか。

中村会長:機械的にきちんと動いています。単1の乾電池で動かす場合,1時間正確に動きます。

聞き手:この大きさのものが乾電池で動くのですか!

中村会長:そうです。これを大量に作ろうということです。

聞き手:確かに,これなら中近東にも売れますね。

中村会長:最初は「水だけでいい」と言っていたので「それだったら,海水の20%を水にして,あと80%はまた海に戻しちゃおう」と言ったら「三鷹光器さん,そこから塩が取れるんでしょう?」ときいてくる。「うん,取れる」と答えたら,「塩も欲しい」ときた。「それじゃあもっともっと温度を上げなきゃ駄目だな」と思っていたら「蒸気が出るのなら,ついでに発電用の蒸気エンジンも回してくれないか」と言われて……(笑)。
 だから,電気と塩と水をつくる,それをやろうとしています。「その代わりに,そんなに3つも欲張るのなら2~3年時間をくれ」ということで今やっています。

聞き手:そういったことをやろうと,どこから思いつかれたのですか。普通,望遠鏡をつくっていて,いきなりこうした方向には目が向かないのでは?

中村会長:そうですね。でも,うちはこういうものを作るのは得意なの。天文の精巧な装置をつくるのに慣れていて,野外のこういう装置はそんなに精度はいらないから,「ずっと簡単だよ」ということです。

指の再生・光でがんの死滅

中村会長:そのほかにも指の再生や,光を使ったがんの治療装置の開発をやろうとしています。

聞き手:再生といいますと機械でということですか?

中村会長:人間の指が,トカゲのしっぽみたいに出てくるのです。

聞き手:義手みたいなものではなく,実際に?

中村会長:そう。義肢みたいなものではなく,本物が出てくるのです。
 それから,がんの治療装置というのは,がん細胞を光で43℃まで加熱して死滅させるものです。がん細胞というのは43℃で死にます。だから人間の体を貫通する43℃の光が開発できれば実現が可能なのです。今は体を切ってがんを手術で治すわけでしょう? でも,手術ではがん細胞の取り残しがあるわけです。だから1メートルぐらいの巨大な望遠鏡を作って,太陽光を使って43℃のパワーの光で人間を貫通するということを考えているのです。人間を裸にしておいて,ダーッと光を当てて「はい,終わり。治りました」とやったら楽じゃないですか(笑)?

聞き手:会長はまだまだ現役でいらっしゃるのですか?

中村会長:お正月に狭心症になって1カ月入院しました。心臓のバイパス手術をやって,「ちょっと静かにしなさい。まだ糸で縫ってあるだから」と言われています。分かってはいるんだけれど,もうじっとしていられなくて動いています(笑)。今,太陽光発電装置を試作しているのですが,中古の発電機を買ってきて直して,蒸気エンジンがやっと回ったところです。天文台長が天文台の敷地を600坪くらい貸してくれるというから,これから蒸気のボイラーと集光装置を作ったら天文台の空地へ持っていって実験しようと思っています。ちょっと爆発するかもしれないから,真ん中の広いところで……(笑)。この発電装置では, 1週間ぐらい曇っていてもちゃんと電気が起こせるものを作ろうと思ってます。
 今みんな風力発電やソーラーパネルを研究していますが,「曇っていてもとにかく1週間ちゃんと電気をもたせられればトップを切れるぞ,あわてないでゆっくりやれよ」と言っています。

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