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第6回 特別企画 山本和彦・輿水大和『エール的対談』

山本
 私は,文字認識を手始めに,医用画像,屋内から自動車を含む屋外の非整備環境認識まで,半世紀に渡って研究開発してきました。この多様な現場に近い画像処理の研究開発で大事なことは情熱と考えます。当面の打算や名誉ではなくて,俺はこの世界に生きるという覚悟ともいえるでしょう。これを堅持し続けるために自分一人だけでは生きられないことに気づくことが大事です。
 自分が何者であるかは周りが決めることで,相対的な関係のなかで自分の存在があると考えています。若い人たちへのエールとして,この世界で長く頑張るとき,周りの仲間は大切です。
 IAIPのサマーセミナーでは,長年「俺は画像処理が好きだ!」と,みんな揃って大声で3回唱和することをお願いしていました。最初は小さい声にしかならないですよね。「もっと大きい声を出して!」とお願いすると,2回目は多少声も出る。でも,「もっともっと腹の底から! !」とお願いすると,ようやく「俺は画像処理が好きだ! ! !」と大声で叫んでくれます。すると参加者の反応が二つに分かれます。同意してくれる人と,なんでこんなことを言わせるんだと思う人です。同意してくれた人は腹の底から「俺は画像処理が好きだ! ! !」と言ったとき,自分がこの画像処理の世界でどう生きるか,再認識できるのではないでしょうか。
 話を元に戻すと,IW-FCVの設立に先立って,言語の異なる国々の方とつきあうときに一番大事なことは,やはり情熱,誠意,お互いの思いが通じることと,感じておりました。

輿水
 IW-FCVでは2022年にHonorable Contribution Award(貢献賞)を創設し,第1回の受賞者は山本先生でした(ご受賞おめでとうございました!)。IW-FCVの設立当時,山本先生のお手伝いをした私は,この受賞は先生がずっと捧げた心構えにふさわしいと感じます。
 画像処理の分野も,現在多くの国際会議がありますが,とかく運営が無機的でシステマチックに見えます。一方で先生の関わる国際会議はどれも,人間関係が原動力になっていると感じます。先生がそのような運営を意識なさったきっかけはどのタイミングでしたか。

山本
 ICPR(International Conference on Pattern Recognition)などをはじめとする大きな国際会議は,参加して発表して帰ってくるイメージですよね。しかし私は,学会の大事さはそれにとどまらないと強く感じていました。そのきっかけは,メリーランド大学のローゼンフェルト教授のもとで研究させていただいていた時の経験です。学生を含め当時の仲間が,自分のその後の人生を決めた気がするのです。のちに彼らと,何かをしようとするとき,いろいろなことをお願いできる関係性が持てたのです。これはとてもうれしい経験でした。研究はもちろん大事で,そのための学術界ですが,それ以上にお互いの気持ちを交わすことが大事と切に思ったのです。今はzoomなどもありますが,やはりできるだけ直接会って議論することに意味があると思います。

輿水
 ここではもう少し,「情熱を傾ける」話題にこだわりたいと思います。IW-FCVは山本先生が創設者と僕は思っていて,これは大規模で人のつながりが希薄になりがちな国際会議に対するカウンター的国際会議,その,学術的行動隊のようなものをイメージされたのではないかと考えています。
 日本人的な発想では,誰かが作った舞台,誰かのふんどしで相撲を取ることにだけ情熱を傾ける人が多いと感じます。一方で舞台そのものの運営に情熱を傾ける,そもそもその舞台装置をどうするか,または新しい舞台を作りたいという情熱もあるでしょうに。画像技術界の若い人たちにエールを贈る意味で,日本で活動する僕たちに欠けているもの,または伸ばしたらいい点は何か,お話しいただけますか。


写真2  IW-FCVでの集合写真

山本
 学会発足に先立って,戦後補償の一環として先端技術の転移のためにいまだ復興期の韓国を訪れました。そこで日本で博士号を取得して帰国した多くの研究者がおられることを知りました。一過性の技術指導にとどまらず,せっかく日本との絆を深めた方々がいらっしゃるのだから,彼らが輝ける場を提供したいと思いました。その一環として学会(IW-FCV)を設立させていただきました。かつて日本人が米国に追いつけ追い越せと励んだのと同じように彼らも頑張って,当時を想像できないほど先に進みつつあります。
 我々も常に新しいこと,新しい世界を志向し,論文でも考え方でも,クリエーティブな新しい世界を拓く情熱が大切です。われわれリサーチャーである研究者は,言い換えれば探検家かもしれません。未知なるものに挑戦する情熱があり,その世界の中で生きようとする,これが研究者ではないでしょうか。

<次ページへ続く>

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