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第3回 「物体指紋」で画像技術界をバズらせた石山塁博士―モノのタグなし認証技術―

2.「物体指紋」技術研究,おさらいとポテンシャル


(1)全容

写真1  メロンの果紋,メロンの網目テクスチャと「指紋」


 写真1が,石山さんが提案された「物体指紋」認識技術の元となった,メロンの「アグリバイオメトリクス」認識技術のアウトラインである。
 まず,メロンのヘタ位置を見つける。メロンの場合はヘタがランドマークとなっている。ランドマークを起点に指紋画像を定める。一連の画像処理を経て姿勢正規化を施し,これを物体指紋画像とする。この画像からマニューシャ特徴を抽出する(しないで回避する)。このあとは,パターン認識と個体認証に係る諸技術に成否を委ねることになる。
 画像AI技術のスキームからは,2つの基本課題を乗り越える必要がある。どこにランドマークを置くかを決める技術,キーとなる物体指紋画像において,個体内分散をいかに抑え,個体間距離を最大化できるように如何に対策するかにある。
 石山さんは,アグリバイオメトリクスから物体指紋へ一般化するためにFourier-Mellin変換(信学技報, Vol.117, No.514, PRMU2017-178, pp.37–42, 2018年3月) による画像マッチングを実装して,ざっくりこの辺りであればその位置不変性に助けられてマッチングに成功できるとした。いわゆるマニューシャ特徴を生真面目に定義しないで済ます知恵,ないし指紋のマニューシャ特徴をあえて形式知で書こうとしなかった,DL技術に似た知恵がここにある。

(2)認証/個体内の同定安定性,個体間の個体差頑強性
 さて,認証のパターン認識技術は,スケール不変,位置不変,回転不変の三原則に頑強で安定でなくてはならない。石山さんは実験検証を経て,個体内の同定安定性,個体間の個体差頑強性を骨太に信頼性を確保した。写真2は同じ金型から製造された鋳造品のキーとなる物体指紋画像の実例である。

個体内分散が小,個体間距離が大な部位はどこにするか?
写真2 同じ金型で作った鋳造品の指紋画像


 なお,今後においては,形式知のハンドクラフト的実装に訴える手法にも深層学習技術に任せる手法にも,現場の要請も様々なので,期待を残しておいたほうがよいかもしれない。

(3)人工物でも自然物でも指紋画像は普遍的
 人工物でも自然物でも指紋画像を定めさえすれば,写真3のような「物体指紋」は普遍的で,様々な産業現場からの実例に枚挙に暇はない。

写真3 物体指紋の拡がり−人工物,自然物−


 そして,残る課題はシンプルに,何らかの方法で指紋画像を現場で決める技術が求められることである。ランドマークを決める技術が,現場ないし開発現場で熱望されているのである。この技術は,例えばKIZKIアルゴリズム(精密工学会, Vol.83, No.2, 2017)を連想させ,広くは,視覚的サリエンシー(誘目性,顕著性)技術を活用する,そんな手前みそな妄想が広がってくる。

<次ページへ続く>

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