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技術の応用には必ず条件がある その制約の中で最適解を考えていくことが大切静岡大学 川田 善正

次世代に向けた光コンピューター用のデバイスを研究

聞き手:工学分野に興味をもたれたきっかけについて教えていただけますか。

川田:高校生のときに文系に行くのか理系に行くのかの選択がありました。私は歴史小説などが好きだったので,文系に行きたいという気持ちがありました。でも数学や物理は,月並みですが,色々なことがすっきり説明できるということに面白いと感じていました。特に物理は,いろいろな自然現象が数式を使うと説明でき,理解できることはとても面白いと思いました。これまであまり気にしていなかった自然界の事象には,それぞれ理由があってきちんと説明できたり,また,相対性理論や量子力学など,これまでの考えでは理解できない新しい世界が広がっていることも面白く思いました。それで,いろいろ悩みましたが理系に行くことにしました。それが直接のきっかけで,大学も理系の大学を目指し,工学部に入りました。
 物理が好きだったので,大阪大学の応用物理学科に進み,物理を勉強し,4年になって研究室を選ぶときに,南茂夫先生が学科の中にいらっしゃいました。南先生は温厚で著名な先生でしたし,光を使ってセンサーを作るという面白い研究をしていらっしゃったので,当時非常に人気が高く,ぜひそこに行って光関係の研究がしたいと思って選びました。修士の時のテーマは,光コンピューターに利用するための光増幅器の開発でした。光を光で増幅する「光トランジスターアレイ」を実現することを目的として研究を行っていました。光を当てると屈折率が変化する結晶(フォトリフラクティブ結晶)を用いて,光波結合,位相共役波の発生などを実現することができます。情報をもった弱い光と強度の大きなポンプ光を結晶に入射させて,結合させることにより,強度が大きくなった信号光を出力させ,同時に演算処理を実現することを目指していました。当時は,非常に新しい研究でしたので,結晶の特性なども不明なところが多く,多くの新しい発見があり面白く研究させていただきました。
 修士からドクターに行くか,就職するかという点では悩みました。その当時,修士と学部でやっていた光コンピューターは注目をされていて,次世代は光で計算することを皆が考えていましたし,私は光コンピューターで使えるデバイスを作る研究をしていました。その研究については,他でやっている人は多くなかったですし,自分で工夫すればいろいろなことができるので,そういう意味では面白かったです。続けて勉強したいと思い,ドクターに進みました。

電子顕微鏡と光学顕微鏡を融合した超解像顕微鏡開発に挑む

聞き手:現在,中心にされていらっしゃるご研究についてお話いただけますか。

川田:基本的には光学顕微鏡の開発をしています。これまでは光メモリの開発で,光学顕微鏡の技術を光メモリに導入し,多層化の技術に取り組んでいました。DVDなどは,今は2層になっていますが,それを100層まで多層化することで,記憶容量を飛躍的に高める研究をしています。しかし,今は,光メモリからフラッシュメモリやインターネットに主流が移りつつあることからあまり実施しておらず,光学顕微鏡のほうにシフトし,超微細なものが見える超解像光学顕微鏡の開発を進めています。顕微鏡は光を使っているため,どれくらい小さなものが見えるかというのは光の波長で決まってしまい,物理的な限界があります。それをいかにしてクリアし,さらに小さいものまで見られるようにするかについて取り組んでいます。
 超解像顕微鏡には,STED(誘導放出抑制顕微鏡)やPALM(光活性局在蛍光顕微鏡)など,様々な方式が提案されています。2014年のノーベル化学賞を受賞したのは,これらの超解像顕微鏡技術です。
 私たちが開発しているのも超解像顕微鏡なので目指しているところは同じですが,私たちは電子顕微鏡と光学顕微鏡の融合を考えています。電子顕微鏡というのは波長が短いので,分解能は上がります。この電子顕微鏡の特性である分解能が上がることと光学顕微鏡の特性をうまく組み合わせることで,例えば生きた生物試料をそのまま観察することができるような新しい顕微鏡を開発しています。
 電子顕微鏡の画像と光学顕微鏡の画像を同じ場所で同時に観察できて比較できるという顕微鏡はありましたが,私たちが目指しているのは光学顕微鏡です。光学顕微鏡の分解能は,光を収束したときの点をどれくらい小さくできるかで決まります。しかし,レンズを使って光を集めているだけでは,0.5 μm程度が限界です。それに対して,電子線を使って小さな輝点を励起することで分解能を上げようと考えました。それは私たちのオリジナルです。細胞の中にはイオンチャンネルといってイオンが出入りする小さな部分があるのですが,それくらいまで見えるような顕微鏡を作成するのが私たちの目標です。
 しかし,非常に小さな明るい光の点を励起するためには,まず電子線の照射領域を小さくしないといけません。電子線は物質に入ると散乱しますので,散乱しないようにするためには発光材料の厚みを薄くしないといけません。しかし,薄いと発光材料のボリュームが小さくなってあまり光らないので,今度は光強度が弱くなります。明るく光らないと雑音の影響を大きく受けますし,暗いので高速に画像が撮れないといった問題もあり,総合的な難しさがあります。また,非常に薄い膜が必要で,かつ電子線で明るく光ってくれないといけないので,材料開発もあわせて必要になります。

光電場分布記録型の近接場光学顕微鏡の観察像

光が照射されるとその強度に応じて表面に凹凸分布が形成される材料の上に,直径500 nmの微粒子を配列させて,その表面強度分布を観察した結果。微粒子が存在した部分に凹みが形成されており,微粒子の下側に大きな光強度分布が形成されていることが確認できる。光照射後に微粒子を洗浄により薄膜から除去したが,一部除去されずに表面に残っている。

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川田 善正

静岡大学 川田 善正

●川田 善正(かわた よしまさ)先生 ご経歴
1992年 大阪大学大学院博士課程応用物理学専攻修了 1992年 大阪大学工学部応用物理学科助手 1995年11月-1996年7月 AT&T(現Lucent Technologies)Bell研究所 1997年 静岡大学工学部機械工学科助教授 2005年 静岡大学工学部機械工学科 教授 2013年 静岡大学電子工学研究所 教授 2017年 静岡大学工学部長
●研究分野
レーザー顕微鏡,3次元結像光学,フォトリフラクティブ光学,3次元光メモリ,非線形光学
●主な活動・受賞歴等
2013年1月~ 2018年12月 ISOM国際会議組織委員長 2015年3月~ 2017年3月 応用物理学会理事 2012年4月~現在 レーザー学会諮問委員 2018年4月~現在 日本光学会理事 2020年5月~ 日本分光学会会長
1997年 応用物理学会日本光学会光学論文賞 2007年 文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門) 2013年 OSA Fellow (Optical Society of America) 2013年 中谷大賞 2019年 静岡大学研究フェロー

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