【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

「本物を創る」という理念に共感してくれる人たちに集まってほしい日本特殊光学樹脂株式会社 代表取締役 佐藤 公一

5,000人規模より風通しの悪い十数人の会社

聞き手:佐藤さまがご苦労なさったことや,社内での課題とその対処法についてお聞かせください。

佐藤:そうですね。永遠の課題というのは多々あります。今回この機会をいただいて思いかえすと,本当にいろいろありすぎてちゃんと時系列で思い出せませんでした。
 まずは分かりやすいところですと,私が入社したころの在庫や金型の管理ですね。ある意味で職人さんたちは「すごい」と思ったことの一つが金型の管理でした。弊社ではフレネルレンズ,シート状のレンズを作っていますが,標準の金型が多数あり,さらにお客さんによってはカスタムの金型を作らせていただくこともあります。注文のリピートが入るとその金型を出してきて,成形します。その金型を探す時,職人さんが「あ,その辺の棚の真ん中辺ぐらいかな」と記憶を頼りに,あたりをつけて取り出して,一つ一つ,金型を開けながら探して行くのです。金型の場所を覚えていることに驚きましたが,毎回30分とか40分と時間がかかるのです。何て効率が悪いのだろうと思い,本当にこういう場で言うのが恥ずかしい限りなのですが,そんな訳で,まずは金型の台帳を作ることをはじめました。現場の金型管理で台帳に何を書くか,どういう体裁にするか,どのタイミングで誰が書くか。今でこそデータベース化されましたが,当時は,まずは紙でちゃんとやることにしたのです。
 あとは,従業員たちの雰囲気の改革でしょうか。会長が言うことが絶対で,自分の意見がなかなか言えない,あるいは,言われたことだけやればいという空気がありました。何か問題があっても,解決をするのが会長一人ということも非常に多くありました。そこでみんなの意見をどうやって引き出していくか,どうやってみんなをチームにするのかを考えました。
 私がそれまで働いてきたCTCやKDDIヨーロッパの職場の雰囲気は非常によく,本当に周りに恵まれていて楽しく仕事ができました。それに何か問題があったときには,その部署だったり,身近な同僚みんなで相談し合ったり,アドバイスしたりといったことができました。CTCで印象的だった出来事なのですが,ある客先の金融機関ネットワークでトラブルがあり,その対応のために私が1人で福岡に行っていました。なかなか原因が分からなかったのですが,メーカーはなかなか明かしてくれなかったのですが,どうやら納入した複数の製品に使われていたチップのバージョンが変更になっており,その変更が動作に影響を及ぼしていたのです。対策として仕様変更する前の部品に全部を変える必要が出てきましたが,メーカーも細かなバージョンまで管理していないので在庫が把握できず,結局自社の倉庫で在庫の山から一つずつ電源を入れてバージョンを確認しながら探しだす必要がありました。すると私が現場で対応している間に,部署のみんなが倉庫に行き,部品を探してくれたのです。もう本当にそのときは涙が出そうになりました。事務所に残っている人たちからも「みんな倉庫に行って頑張っているから,そっちも頑張ってね」と励ましのメールがきました。それぐらいすごく温かい職場でした。
 KDDIのときも似たような感じで,イギリスという国柄もあるのかしれませんが,仕事が終わればパブに飲みに行き,お客さんとも厳しい中にもすごく楽しい関係をつくっていました。
 そんな経験をして弊社に入ってきたのですが,わずか十数人だった弊社の方が部署の違いを意識しすぎていて,5,000人規模のCTCのほうがすごく風通しが良いのです。もちろん将来会社を継ぐであろうという立場の私と,それを探るような従業員たちの関係性も影響していたとは思います。それにしてもまずは風通しを良くしたいというのがありました。
 ではどうしよう。自発的な意見や,一体感を出すにはどうしたらいいのだろう。と,いろいろもんもんとしていましたが,それぞれに目標を持ってもらうのがいいと考え,目標設定シートというものを作りました。その当時は日々の入った注文をこなす,あるいは会長から言われたことをやるというのにみんな精いっぱいでした。それを,それぞれ自分が身の回りの仕事で何か解決したいことや課題があったら,半年で何か解決したいこと,やってみたいことを書き出して,それを自発的に空いた時間で確認できるようにしたのです。
 注文には波があり忙しい時と仕事が少ない時がありますが,仕事が少ない時期に「暇なんですが,何か仕事ありませんか」という恐ろしいことを言う従業員が何人かいました。「いや,何かあるでしょう」と思ったものです。例えば,成形機のメンテナンスだったり,いろんな改良だったり,お客さんから注文が入らないからこそできる仕事が絶対にあるはずなのです。そしてそれはチャンスなのです。なのに,何か仕事がありませんかと言われたのが非常にショックでした。仕事がない,あるいは,ちょっと時間が空いたときに自分でできることを意識してもらいたくて,目標設定シートを書いてもらいました。
 それまではある意味ぬるい職場でしたから,それにあわないとか,面倒くさいと思った人たちの中には,会社を離れる人たちもいました。

   

左:樹脂の直接加工による超大型シートレンズや球面,非球面の磨きレンズなどの特殊形状レンズ
右:超精密加工を施したプレス成形用金型製作と金型の形状を忠実に転写できる高精度熱プレス成形で製作された各種レンズ



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佐藤 公一

佐藤 公一(さとう・こういち)

1976年 東京都生まれ 2000年 早稲田大学理工学部機械工学科卒 2001年 英国ノティンガム大学 Operations Management & Manufacturing Systems修士 2001年 伊藤忠テクノサイエンス(現:伊藤忠テクノソリューションズ)入社 ネットワークソリューション,セキュリティ,ワイヤレスネットワークなどの設計構築,取り扱いプロダクト担当 2004年 KDDI Europe Ltd.入社 ネットワークコンサルタント 金融機関のネットワークマネジメント,セキュリティシステム構築 2006年 日本特殊光学樹脂入社 技術営業部 2012年 同社 代表取締役就任 現在に至る
●主な活動歴
2016年 板橋次世代経営者会議 会長
●日本特殊光学樹脂株式会社について
日本特殊光学樹脂株式会社は,高品質,高精度プラスチックレンズの総合メーカー。「本物を創る」を社訓にフレネルレンズ,リニアフレネルレンズ,レンチキュラーレンズ,フライアイレンズ,レンズアレイ,非球面レンズなどを金型から製品まで,一貫生産で提供している。URL:http://www.ntkj.co.jp/

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