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「本物を創る」という理念に共感してくれる人たちに集まってほしい日本特殊光学樹脂株式会社 代表取締役 佐藤 公一

理念に共感してくれた人たちはどんどんステップアップする

佐藤:2006年に入社して,いま挙げたような課題はすぐに把握しましたが,台帳管理や生産管理などの業務改革を進めるには,そのツールを導入するための資金がありませんでした。だからなかなか踏み切れませんでしたが,ようやく補助金などを活用したり,それと合わせて,せっかくなので私のバックグラウンドであるITを使ったり,省力化しながら効率化をしました。まずは手の届くところからはじめて,いまでは受注から出荷までの生産プロセスの見える化に取り組んでいます。
 日報にも手を加えました。それまでも日報という形でみんなに記録をする習慣ができていましたから,それを改善につなげるための記録にするシステムにしたかったのです。例えば,仕事量の調整や,リアルタイムで在庫がわかるようにするとか。いちいち現場に行って在庫の山を数えて,お客さんに折り返すのではなく,PCの画面を見ればすぐにわかる。それも入力タイミングにタイムラグがなく,ちゃんとその作業が終わったときに日報を書けば,それがきちんと在庫として反映されるようにしました。
 そこに至るまでは私だけではなかなか難しかったですね。そこで採用に積極的に関わり,どういう人に来てもらいたいか,どういう会社にしていきたいかをじっくりと考えました。
 弊社には「本物を創る」という社訓,というか理念があります。これは会長が考えてずっとやってきていたのですが,実のところ,それまではこの理念を前面に打ち出して採用をしていなかったのです。
 そんなあるとき,産業振興に非常に力を入れている板橋区が主催する,経営者の研修に参加する機会がありました。
 そのときに会社を作り上げていくのなら,その理念に共感してくれる人たちが集まってくれたほうがいいということに,遅ればせながら気付かされました。当たり前のことなのですが,それまではそれをしていなかったのです。
 やはり会社の理念に共感してくれた人たちというのは自分で考えてくれる人たちで,最初はパートや契約社員でも,どんどんステップアップしてくれるのです。

働く人みんなが自分の本物を創る

佐藤:気が付くと修士論文でやろうとしていたものが,さらに発展して実現できました。これが実現できたのは,何よりも働く人みんなが自分の本物を創るために気配りをはじめ,こういうツールがあるからこういう使い方をしようと動き始めてくれたからです。私が現場で音頭を取ってトップダウンでシステムを活用したのではなく,現場から変わってくれたことが,私はうれしいのです。
 もう一つの大きな変革は労務・人事管理で,去年の6月から新しい制度を運用しています。先ほど出てきた目標設定ですが,当初は目標の達成具合が評価と直接ひも付けされおらず,モチベーションの向上にはあまりつながっていませんでした。今回はそこを改善すべく,助成事業を活用してコンサルタントに入ってもらい,給料体系や人事評価体系を大幅に改定しました。
 例えば,半期に一度,この半期はどうだったか,気になるところ,次はこういう感じでやってほしいとか,あるいは従業員自身で振り返ってもらい,普段思っていることを話してもらう機会を,今までも設けてはいたのです。今回はそれに加えて,職能等級基準で仕事の質を細かく定義し,それと照らし合わせた個人個人の仕事の評価という形のフィードバックをするようにしました。
 この新しい制度の要が「本物創りタスクシート」です。このシートにそれぞれ担当者がいろんな課題を思い付いたときに入れておくようにしています。目標設定の目標をここに入れてもいいし,期の途中で思い付いたものをここに入れて,半期の面談のときにこれができましたとPRしてくれてもいい。なかなか時間がないから,たまりたまって課題だけがあるということもあります。しかし,以前はその課題すら見えてなくて,いざ手が空いたときに何をやればいいのだろうという状態でしたが,今はこのシートを確認すれば「このタスクをちょっとやってみよう」などと行動できるようになります。それができるだけでも,「仕事がありませんか」と言われたときに受けたショックはもう経験しなくいいのです。これは評価システムの中に組み込みまれた課題解決ツールです。
 課題の進捗は順番に朝礼で報告します。「すみません,以前から進んでいません」とかでもいいのです。もちろん進んでいてほしいのですが,自分がタスクを持っていることを常に意識してもらうことが重要なのです。
 さらに,風通しを良くするためには従業員同士の交流が重要だと考え,今では年に1回お花見の会と,社員旅行を復活させました。少しずつ地道に風通しが良くなればいいなと考えています。
 2012年に代表取締役に就いた時,不安はありました。今まで働いていた会社では,マネジメントする立場ではなく従業員という立場でしたから。同僚と和気あいあいと接するというのは今まで非常に慣れていましたが,次期経営者ということで壁がある中でどう接すればいいのかと悩んだこともあります。しかし,会社を経営していくことに関しては,考える間もなく課題が次から次へと出てきていたので,本当に日々与えられていた課題に取り組んでいくだけで,怖さとか不安を感じる暇がないというのが正直なところでした。
 でも,ふと振り返ると,あぁ,成長はできてるかな,成果はそれなりに上がってきているかなとは感じています。あとは業績を伸ばして従業員の給料を上げる,ボーナスをちゃんと出して還元したいと思いますが,設備の修繕もかさんでいる時期なので,そこが今一番悩ましいところですね。



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佐藤 公一

佐藤 公一(さとう・こういち)

1976年 東京都生まれ 2000年 早稲田大学理工学部機械工学科卒 2001年 英国ノティンガム大学 Operations Management & Manufacturing Systems修士 2001年 伊藤忠テクノサイエンス(現:伊藤忠テクノソリューションズ)入社 ネットワークソリューション,セキュリティ,ワイヤレスネットワークなどの設計構築,取り扱いプロダクト担当 2004年 KDDI Europe Ltd.入社 ネットワークコンサルタント 金融機関のネットワークマネジメント,セキュリティシステム構築 2006年 日本特殊光学樹脂入社 技術営業部 2012年 同社 代表取締役就任 現在に至る
●主な活動歴
2016年 板橋次世代経営者会議 会長
●日本特殊光学樹脂株式会社について
日本特殊光学樹脂株式会社は,高品質,高精度プラスチックレンズの総合メーカー。「本物を創る」を社訓にフレネルレンズ,リニアフレネルレンズ,レンチキュラーレンズ,フライアイレンズ,レンズアレイ,非球面レンズなどを金型から製品まで,一貫生産で提供している。URL:http://www.ntkj.co.jp/

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