【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

いろいろな経験を積むためにも学生にはできるだけ海外で洗礼を受けさせる早稲田大学 教授 中島 啓幾

アプローチの仕方はいろいろあるから面白い

中島:私は,若い人,今でいえば,学生とか,若手の先生方とかに教えられることがすごく多いです。システム屋さんにデバイスを提供するときには,モジュールにしないといけなのですが,モジュールというのは,実際に組み立て行くわけです。ウェハー上にチップをつくり,それにファイバーをどう付けたりするかということは,リアルに絵に描けるかどうかということがポイントなのだと,まだ入社して2~3年の人に言われたりしました。それは全くそのとおりで,餅ではないけれども,絵に描けなければどうしようもないのです。今はコンピューターで勝手に設計してくれたり,データさえあれば,3Dでものができてしまう時代です。しかし,一遍全部をバラバラにして,それぞれ意味のあるものを集めて,ある機能なり処理をするという構造をしっかりしたイメージで造れるかどうかが重要なのです。
 それと入社してすぐ,5月の連休明けまで約1ヶ月,会津若松にある半導体の工場に実習に行かされましたが,それがとても印象に残っています。若い女の子が,改善工夫提案というのを現場で月に2桁出すのです。半導体がどうやって動いているかということを彼女たちは知る由もないのですが。
 光はLSIなどに比べると完全には分業できないと思います。一方,ちょっとしたものを作って,その測定結果だけで勝負ができる要素があると思っています。ですから,大学4年生から入ってきた学生を育てるときには,シミュレーションによる設計とともに,まずは,見よう見まねでもいいので実際に自分で作ってもらい,それでデータを取らせてみます。それをちょっと応用実験することで,自分自身の成長と共に重なる体験が得られていくのだと思います。われわれが扱っているような導波路デバイスなら,たとえばシリコン基板の上にリング共振器などを作り,光を入射してみれば波長に応じた変化は必ず見えるはずです。
 一方,エレクトロニクスの進化というのはどこまで行くのかを考えるとき,私は,やはりムーアの法則は,ある意味,飽和,あるいは限界に達していると考えるのですが,それでもソフトウエアの支えなどによって進むのでしょう。問題は,「エレクトロニクスは進化するけれども,消費電力はどうするのですか?」ということです。このまま行くと,電力が無限大に必要になってしまいますが,そういうわけにいかないですよね。こういう時代ですから地球に優しくしなければいけない。
 電気でできることを無理やり光でやる必要はなくて,電気で絶対できないことを光で実現しようとか,同じ光の中でも,直接変調では絶対飛ばないところや,「反射にどうしても弱いのであれば非相反素子を加える」という付加的なものをやったらいいのです。でも,それはメインのものがどういうことかを理解していないとやれないことでもあるので,す。ある事象を前にしたときの考え方,アプローチの仕方にはいろいろあるのが,面白いというか,楽しいところでもあります。
中島 啓幾(なかじま・ひろちか)

中島 啓幾(なかじま・ひろちか)

1948年 東京都生まれ 1966年 麻布高校卒 1970年 早稲田大学理工学部応用物理学科卒 1972年 早稲田大学大学院理工学研究科修了 1972年~1996年 (株)富士通研究所 1984年~1996年 早稲田大学 非常勤講師 1996年 早稲田大学 教授(現在に至る) 1998年 ボストン大学 客員教授 2001年~2014年 応用物理学会日本光学会微小光学研究グループ 実行委員長 2002年~2014年 日本女子大学 非常勤講師 2003年~2005年 科学技術振興機構(JST)研究開発センタ出向 シニアフェロー 2011年~2013年 応用物理学会 理事(総務担当) 2012年 応用物理学会 春季学術講演会 現地実行委員長
●研究分野
酸化物単結晶を用いた微小光学,光導波路デバイス,光集積回路と応用
●主な活動・受賞歴等
第9回光産業技術振興協会桜井賞受賞(1993年)
第2回応用物理学会フェロー表彰(2007年)
応用物理学会微小光学研究会運営委員長(2015年~)

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