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シリコンフォトニクスは最終兵器これに代わる術は未来永劫生まれない横浜国立大学 大学院 工学研究院 教授 馬場 俊彦

シリコンフォトニクスは次世代の光集積回路の本命

聞き手:今後のシリコンフォトニクスやマイクロレーザーの社会での有効性についてお聞かせください。

馬場:まず,シリコンフォトニクスは,次世代の光集積技術の本命です。何かを計算させるならシリコンの電子集積回路,つまりLSIの方が得意ですが,通信は光の方が得意です。最近の計算システムは遠距離からミクロなところまで全部ネットワークでつながっていて,計算自体もネットワークの中で行われているような状況です。それで通信の比率がどんどん増えて,どこからが通信でどこからが計算かという領域がどんどん混ざり合って,少しずつ通信がLSIのチップ内に入ってきています。10年後には世の中の情報ハードウェアの相当の部分が電子から光に置き換わると思います。光で計算を行う「光コンピューター」は難しくても,相当の部分が光の世界になることは十分にあり得ます。
remark53_3 私はシリコンフォトニクスが光集積の最終兵器で,これに代わる技術は未来永劫生まれないと考えています。シリコン技術は,トランジスタやICが作られ,それがアプリに組み込まれて売り物になり,さらに新しいプロセスが開発されてLSIが生み出され,という循環の中で,少しずつ進化してきました。そうして今,世界中にLSIや計算機が普及し,それを作る巨大なインフラができ上がっています。昔,よくガリウム砒素で高速なLSIができると言われていましたし,今でも違う素材で違うLSIができるのではないかと言われますが,それは難しいと思っています。シリコンがたどったような道をもう一回まったく別のアプリで,別の歴史で歩まないとそこまでにならないはずです。そういう意味で電子の世界ではシリコンの牙城は崩れようがありません。今と同じものを目指すなら電子はシリコンでおしまいでしょうし,そのインフラを直接利用できるシリコンフォトニクスも光集積に関しては本当に最終兵器だと思います。
 直近のアプリだと,例えば,データセンターで使われる通信機器などに応用されてきていますが,ここでは技術が半分くらいで,残りの半分はビジネス勝負になりつつあります。下手をすると日本は,アメリカやアジア諸国にここでも負ける可能性があり,研究を楽しんでいる場合ではないという雰囲気がすごくありますね。技術が極まってきたときの悩みです。
 一方,マイクロレーザー,最近はナノレーザーといっていますが,結構センシングに向いていまして,医療用バイオセンサーの研究を行っています。
 最近の半導体レーザーや光デバイスを作る人たちには共通の悩みがありまして,ものすごく要求が厳しくて高度な技術を使っているのに,とても安く販売しなければいけない。簡単に作れるのに高値で売れる,なんていうおいしい商売がほとんどないんです。そのなかで,医療用途はなかなか有望かもしれない。医療用だとセンサーは一回一回使い捨てになりますから,レーザーがセンサーに使えるとなれば,高めの値段設定で確実に大量に売れるかもしれません。元値30円でも1個1,000円ぐらいが許されるストーリーがあるかどうかということですが,これこそ夢です。でもこんな夢がないと産業界も苦しくてやっていられないんじゃないでしょうか(笑)。
 現時点では,ごく微量なタンパク質を確実に捉えられるような本当に病気診断に役立つバイオセンサーがありません。これは光に限らず,電子的な手法でも,MEMSみたいなものでもどんな手法でもいいのですが,何か現状の性能を打破するような技術が一個出れば,絶対にヒットするはずです。今,研究しているナノレーザーセンサーは,とても高感度が出ていまして,かなり有望になってきているので個人的には盛り上がっています。
 最近「イノベーション」とよく言われて,いい加減遊んでいるのはやめて少しは役立て,という雰囲気が漂っています。私も定年まであと15年ですから,そろそろ一丁上がり,二丁上がりぐらいのモードで研究開発を進めようと考えています。フォトニック結晶は概念が出てから30年ぐらい経ち,多方面からサポートを受けて研究してきましたが,最近「何も出ないの?」といろいろな人に会うと言われますので(笑)。 <次ページへ続く>
馬場俊彦(ばば・としひこ)

馬場俊彦(ばば・としひこ)

1962年長野県出身 1985年横浜国立大学工学部電気工学科卒業 1990年横浜国立大学工学研究科電子情報工学専攻博士課程修了 1990年東京工業大学精密工学研究所助手 1993年横浜国立大学工学部電子情報工学科講師 1994年横浜国立大学工学部電子情報工学科助教授 2001年横浜国立大学大学院工学研究院知的構造の創生部門助教授 2005年横浜国立大学大学院工学研究院知的構造の創生部門教授
●研究分野:光エレクトロニクス,光物理
●主な受賞歴等
2012年市村学術賞功績賞 2011年電子情報通信学会エレクトロニクスソサイエティ賞 2007年IEEE/LEOS Distinguished Lecture 2006年電子情報通信学会論文賞 2006年日本学術振興会賞 2000年丸文研究奨励賞 1994年電子情報通信学会論文賞 1994年電子情報通信学会学術奨励賞 1991年丹羽記念賞

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