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うまくいかない研究・開発もそこから学べるため失敗ではないアリゾナ大学 光科学部 眼科光学科 教授 John E. Greivenkamp

講義で使うためにアンティークな光学機器を収集

聞き手:Greivenkamp先生は「The Museum of Optics(光学博物館)」の創設者であり,ホームページ「College of Optical Sciences(光科学部)」内のウェブサイト「The Museum of Optics(光学博物館)」のウェブマスターも務められるなど,歴史的価値のある光学機器にご関心が高いように見受けられますが,いつごろから関心を持つようになられたのでしょうか。
The Museum of Optics(光学博物館)に陳列されている双眼鏡(左)と望遠鏡(右) http://fp.optics.arizona.edu/antiques/

The Museum of Optics(光学博物館)に陳列されている双眼鏡(左)と望遠鏡(右) http://fp.optics.arizona.edu/antiques/

Greivenkamp:The Museum of Optics(光学博物館)の創設については,その設立自体が目的ではなく,前述したように,実際に動作する光学機器を講義で見せるために収集を始め,それが高じて展示することになり,博物館になったわけです。私が教え始めてから10年ほどたったころ,インターネット上でアンティークな光学機器の情報が数多く掲載されるオークションサイトを見つけ,そのサイトを通じてまず望遠鏡を1点購入して,その動作を理解し,さらに顕微鏡,双眼鏡など必要な光学機器を購入し取りそろえていたら,気がつくと800点にも上るコレクションになっていたわけです(笑)。
 約800アイテムの光学機器は,光科学部の棟内のあらゆるスペースに陳列棚を計25個配置して展示しています。展示物は,18世紀初頭から20世紀初頭にかけて製造された光学機器を対象に,それらを広範囲に網羅したコレクションです。中でも,最も古いものが1700年代に製造されたイタリア製の望遠鏡です。アンティークな光学機器の大半はイタリア,フランス,英国,ドイツで製造され,米国では18世紀の中期ころから製造され始めています。光学機器の創生期の主な用途は,天体観測と写真撮影でした。写真撮影は,1840~1850年ころから始まっています。コレクションの条件は望遠鏡,顕微鏡など光学機器の既存カテゴリーにこだわらず,「レンズやミラーが使用されている物」と設定しています。最近では希少性の高い物,あるいはカテゴリーに属さない物を積極的に探して収集するようにしています。ただし,こうしたコレクションはあくまでも私の職務の1つとして光科学部で公認された“プロフェッショナルホビー”であり,決して私の個人的な趣味ではありません(笑)。
 学生は学部棟を訪れる度にそれらを見学できることはもちろんですが,アリゾナ大学の拠点であるツーソン市の市民にも地域の奉仕活動の一環として,光学機器のコレクションを一般公開しています。光学博物館の見学を通じて,大学で実際にどのような教育が施されているか,地域の方々に理解してもらうことを目的に実施しているのです。こうした活動は,米国の大学ではランキングの評価項目の1つになっているほど非常に重要視されています。現在,小学生の子どもから大人までの老若男女が学部棟を訪れ,展示物を見学する風景が見られます。こうした活動の影響もあり,ツーソン市民は光学がツーソンにとって重要な要素であることについて理解を示してくれています。
 また,収集した光学機器を検査し測定するなどして,その結果を学術論文の作成に取り組んでいます。すでに,SPIE(The International Society for Optical Engineering and of the Optical Society of America;国際光工学会)の国際会議やプレナリー・トーク(plenary talk)で発表した,望遠鏡や双眼鏡の歴史をテーマとした論文『The History of Telescopes and Binoculars:An Engineering Perspective』など数本の学術論文をまとめています。

聞き手:Greivenkamp先生の恩師とは,どなたになりますか。

Greivenkamp:私の恩師ということになると,特定の方を挙げることは適当ではないと考えます。なぜなら,私が大学院生として在籍したアリゾナ大学には多くの優れた先生方がいらっしゃいましたから。したがって,特定の方から影響を受けて今の自分があるというわけではありません。
 このような先生方は秀でている能力や人格がそれぞれ異なるため,各先生方から個々に優れた点を吸収するように努めました。そうした中で,私は“学生に上手に教えること”を学んでいたのです。そのため,これまでに出会い,教えをいただいた方々にはとても感謝しています。
 アリゾナ大学には現在,光学を教える多くの先生方がいらっしゃいますが,学生にとって優れた能力や人格が異なるいろいろなタイプの先生方と交流できることは,大変有意義なことと感じています。私が学生時代に教えをいただいた先生方とは,今では“いい友人”として食事をともにするなどの間柄になっています。このような貴重な関係が築けたことは,私にとってとても幸運なことです。 <次ページへ続く>
John E. Greivenkamp(ジョン・E・グリービンキャンプ)

John E. Greivenkamp(ジョン・E・グリービンキャンプ)

1953年米国オハイオ州シンシナティ生まれ。1976年トマス・モア大学文学士号修了。1979年アリゾナ大学修士課程修了。1980年アリゾナ大学オプティカルサイエンスセンター(現カレッジオブオプティカルサイエンス)博士課程修了。1980年イーストマン・コダック社研究科学者。1982年イーストマン・コダック社シニア研究科学者。1987年イーストマン・コダック社,コダック・リサーチ・ラボラトリーズ助手。1992年アリゾナ大学オプティカルサイエンスセンター,および眼科光学准教授就任。1997年アリゾナ大学オプティカルサイエンスセンター(現カレッジオブオプティカルサイエンス),および眼科光学教授就任。
●専門のご研究内容:光学干渉測定法,光学試験,光学加工,眼科光学,光学測定システム,光学システム設計,電子撮影システム工学などを研究
●1999?2000年SPIE(The International Society for Optical Engineering and of the Optical Society of America;国際光工学会)実行委員会メンバー。2001?2003年国際光学委員会の米国諮問委員会メンバー。2002年OSA(The Optical Society;)科学技術評議会議長。2002?2003年SPIE教育委員会委員長。1994年APOMA (American Precision Optics Manufacturers Association;米国精密工学会)メンバー。1995年OSAフェロー。1996年SPIEフェロー
●2007年著書「SPIEフィールドガイド幾何光学」,2008年編集「SPIEフィールドガイド 大気光学」,2010年編集「SPIEフィールドガイド 視覚と眼の光学」(すべてオプトロニクス社より発刊)

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