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窒化ガリウムを選んだのはやけくそでしたカリフォルニア大学 サンタバーバラ校 中村 修二

本記事は、OplusE2000年4月号に掲載された記事になります。
2002年6月号掲載に掲載された名古屋大学 赤崎教授の記事はこちらからご覧いただけます。

作っても売れない下積み時代

 大学は徳島大学の電子工学科だったのですが,当時,徳島大学電子工学科には半導体の分かる先生はいませんでした。そこへ,光物性をやっていた福井萬壽夫先生が来られました。私が大学3年生のときに福井先生の光物性の講義を聞いたのですが,これが非常に面白くて,光物性に興味をもちました。その影響で,4年生で講座に入るときに,材料物性を選びました。そこで僕がやったのは結晶成長でした。
 その後,修士課程に入って,チタン酸バリウムという強誘電体の結晶成長とか電気伝導メカニズムをやりました。
 修士を修了したら大企業に行く予定にしていたのですが,その時すでに結婚していたのです。修士1年で学生結婚したんです。家内が徳島の出身なんですが,講座の先生が,子連れで大都会,大企業に行ったって,永久にサラリーマンだし,サラリーマンだったら田舎にいたほうが生活できる,研究は捨てて家庭を取れ,とこうおっしゃるのです。悩んだのですが,結局,家庭を取って徳島に残る決意をしました。
 当時はもう,研究はすべて捨てて家庭を取って,徳島で子供と生活してれば何でもいいや,という感じでした。そこで担当の教授にどこか就職を世話してくださいと言ったら,日亜化学工業を紹介してくれました。どんな会社かぜんぜん知らなかったのですが,そこでいいということで日亜化学に就職しました。
 日亜化学は化学会社で,当時,蛍光体の粉を作っていました。それが100%です。所属は開発課になりました。開発課と言ったって,課長1人と先輩2人の3人しかいないのです。そこでやっていたことは,ガリウムメタルの精製でした。ガリウム燐(GaP)とかガリウムヒ素(GaAs)とか,そういうのを原料にして,純度の低い99.9%のやつを99.9999%にするのです。精製してきれいにして売る,ということをやっていました。
 その頃,GaPの結晶を作れば,黄緑色や赤色のLEDの原料として売れる,という話を営業がもってきたのです。多結晶なのですが,エピタキシャル成長の原料に使うのです。ちょうどそこへ僕が入社したものですから,じゃ,僕がやってみますということで,そのLED原料を3年くらいやりました。
 3年ほどで製品化までいきました。お金もないので,炉から何から全部自分で作りました。ところが製品化しても売れないのです。すでに大手メーカーが全部製品化していましたからね。
 僕は新入社員だったから,そういう事情を全然知らなくって,営業がもってきたのを頑張ってやったのですが,売れないんです。月に100万円か200万円かは売れますけど,そのくらいでは利益は出ないのです。
 次にやったのが,GaAsの結晶です。これも営業がもってきて,「売れる」と。これも当時,住友電工など大手電機メーカーが製品化していたのですが,若いからそういうことも知りませんでした。言われたからハイハイとやったのです。それも3年くらいで,初めは多結晶を作って,最後は単結晶を作ったのですが,やっぱり売れないのです。
 当時は,開発も製造も,営業まで全部自分でやっていました。
 その次にやったのがガリウムアルミニウムヒ素(GaAlAs)です。液相エピタキシャル成長で作るのですが,赤外のLED用です。赤外リモコンとかフォトカプラーに使われているあれです。
 これも営業が,もうかると言ってきたのです。うちの営業が大手家電メーカーに蛍光体を売りに行って,うちみたいな中小企業に向いた仕事はないかと言ってもらってきた下請けの研究開発だったのです。私は若いからそういう全体のことが分からず,取ってきたらハイハイとやっていました。やり方はと言うと,まったくの独学です。協力も何もなく,お金も最小限で,電気炉も全部手作りです。これも4年くらいで製品化したのですが,やっぱり売れないのです。月に100万円,200万円くらいしか。
 その当時すでに完成している技術ですからね。サンプルを評価してもらったら,まあいけますよ,でも値段は半分くらいにしないと買いませんよ,とか,出力が倍くらい出たら買いますよ,とか,そんな調子なのです。日亜の名前じゃ売れないんですね。もう,がくっときました。
 結局,10年で3つくらい製品化したことになります。全部独学です。原料からLEDの最終工程まで全部独学でやりました。お金もほとんど使っていません。電気炉だって,蛍光体用の大きな釜の部品を集めてきて自分で作りました。それで,結晶を作ったって,評価装置も何もないのです。もう,勘ですよ。

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