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新しいことをやりたいと思ったら,周囲が良いと言っている現実を否定しなさいハイウィッツ・テクノロジー 米澤 成二

特許のこと

 企業にとって特許は,戦略的重要性をもつものは言を待たず,またその重みも年々増加しています。研究者は,それに向けた努力を十分なすべきなのですが,学会発表,製品試作などに注力するエネルギーに比べて劣っているのが現実です。その大きな原因はどこにあるのでしょうか?
 私はこの問題を「研究と特許」という観点でとらえ,長年をかけて数万件に及ぶ特許のデータベースを作成し,研究者の成果の追跡調査を行ってきました。そこで分かったことは,新しい技術潮流をつくる特許の成功の確率は,優秀な研究者でも0.3%以下であるということです。すなわち,研究生涯年数を30年として,その間に最大300件出願してもせいぜい1件あるかないかの低いものなのです。非常に優秀な研究者でも,生涯に出願する件数は250件程度,普通は50件程度ですから,研究者として成功したといえる人はほとんどいない,といってもいいくらい大変なことなのだという事実です。改良特許ではなく,世の中を引っ張っていくような事業になるものはそのくらい厳しく,この数字は納得できるものと思います。余談になりますが,私はこの調査内容をもとに,「発明の方法」,「研究と特許」というテーマで大阪大学で5年間特別講師として講義を行ってきました。このような話は今の大学の先生は誰もできませんから,毎年学生に好評でした。
 本題にもどりますが,ところが残念なことに,社内での各研究者の特許を評価する,長期的なデータベースが構築されていないのです。研究とは長いレースのようなものですから,長期的なデータベースを毎年更新しながら,10年後にでも事業の目になるような,革新的特許の成果がどういう形で補償されるか,若い研究者たちに見えるようにすべきだと思いますね。現状では,おれもちょっと頑張って考えてやろうという意欲が,まったく出なくなっているような気がします。
 一方,現在のように国際的な企業同士での特許戦争が厳しくなってきますと,自社の研究成果だけでは危ないことで,企業間同士でのクロスライセンスというものがでてきます。これはどういうものかといいますと,企業間での特許論争を避けて,お互いに黙って使えるようにしましょうよというものです。要するに,暗黙の了解で特許権利の行使をシェークハンドしましょうというわけです。これは会社の経営危機回避の一番スマート(?)なやり方なのです。しかし,そうなってきますと,社内では個別に特許の評価をする必要がなくなってきます。その特許が重要なものかどうかを評価せずに,ごみのようなものと金のようなものとを一緒に,束でどうぞというわけです。うちの特許は何トンありますよ,高さは何メーターありますよというようなものです。金特許は,出願料稼ぎまがいの特許と同列に扱われ,出願件数だけで評価されてしまいます。
 ところが,世の中にはそういうのを本当に真剣に考えようという研究者もいるわけです。右へならえという人間ばかりじゃありませんからね。しかし,それを評価できるのは5年か10年先のことですから,その出願時点では誰も評価できないのです。目先のことしか評価しないような評価体制では,なかなか新しいのは出てこないのです。
クロスライセンスは,会社の運営の危機回避のために,非常に有効な手段であることは確かですが,発明者にとってはどのようなメリットがあるのかまったく不透明なのです。 野球選手とかは,トップともなれば年間4億円契約の時代ですが,いくら優秀な研究者でも生涯に1件あるかないかの難しい挑戦に成功したとしても,そういうわけにはいっていません。研究のプロとして,10億円特許補償するぐらいの企業がでてくると,研究者も挑戦的になって企業も活性化すると思います。研究者もそれぐらいのことがいえるプロ意識をもたなければならないと思いますよ。最近の新聞でもいっていますが,研究者の能力は会社の貴重な財産だと考るべきで,今までの特許補償制度の根本的な見直しを行う企業も出始めています。今後は研究プロといわれる,精神的に企業から独立した研究者が必ず出てくると思います。

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