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第27回 続・イギリスへ再び―レイクフォーレストから羽ばたく―

古城の展覧会


 これまでもISDHでは講演会と平行してホログラムの展示が開かれてきた。この回はこれまでと少し様子が異なった。まず展示会場が本物の中世の古城であった(図1)。ディズニー映画に出てくるようなこじんまりとしたかわいい建物であった。さらに,展示されたホログラムはすべてイギリスのコレクターJonathan Rossの収集した作品で構成されており,城全体が展示会場となっていた。図2はレセプションでのスナップで,右端はT. J(Tung Jeong),左端はJr. T. J,中央は筆者とYu Jang Lee(韓国)である。この時,TJは私の名前は知っているはずなのに,なぜか「Asako」と声をかけてきた。「Setsukoですよ」と返事すると,「間違えた! 結婚したばかりの息子の奥さんの名前だった!」と言って笑いあった。
 オギ・マスは美しいDCGホログラムを制作しているが,展示されていた作品(図3(a))はホログラムによる構造色の平面作品で,ホログラムなのに画像が一切ない。イギリスの作家パトリック・ボイトのホログラム(図3(b))はアルチンボルト(果物や枯れ枝などの静物画を描きながら顔に見えるだまし絵を描いた16世紀イタリアの奇想の画家)の絵を連想させるユニークな人物像である。図3(c)はジョン・カウフマン制作の銀塩反射型の美しいカラーホログラムである。ネームプレートには英語とウェールズ語の両方が表記されていた。ジョナサン・ロスは数多くのホログラムのコレクションをしていた。イギリスでは1980年代初頭ロンドンの科学館などでホログラフィー展が開催されており(本誌2022年1・2月号pp. 88-89),企画者の1人Eve Ritscherは早くからホログラムのコレクションもしていたようだ。ジョナサンはイーブからのコレクションもそのまま受け継いだという話である。彼はドイツのマティアス・ラウク(本誌2019年7・8月号p. 626)の活動にあこがれてコレクターになったと聞いて,彼のコレクションの充実ぶりに納得できた。スティーブ・ベントンのホログラムを除けば,彼のコレクションには反射型ホログラムが圧倒的に多かった。展示しやすいことも一因であろうか。
 この時,彼とは作品のトレードの話が持ち上がった。ベントンのCrystal Beginningと筆者のイチョウのレインボウホログラム(50 cm×60 cm)のトレード予定だったが,何となく立ち消えになってしまった。現在,筆者は,今年の夏に開催予定の北九州市立美術館での大がかりな個展のため,これまでのホログラムを倉庫の奥から引っ張り出して,確認作業を進めている最中である。このイチョウのホログラム(フィルム)は保管場所が劣悪だったせいか,非常に残念な状態になってしまっていた。もしこの時トレードが実現していたら救われていたのか,あるいは,あちらに手渡った後,残念な状態に変化したかは今となってはわからない。数十年が経過し,そろそろ初期のホログラムの保存方法の結果が出てくる時期でもある。 <次ページへ続く>

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