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第27回 続・イギリスへ再び―レイクフォーレストから羽ばたく―

キューガーデン


 もうひとつぜひ訪れたかった場所,それはキューガーデン(Kew Gardens)である。ロンドン南西部のKew(地名)にある18世紀半ばに始まった王立植物園だ。18世紀から19世紀,欧米ではプラントハンターといわれる植物の収集家が大活躍した。この時代の食料や,香料,薬などに利用できる有用植物から観賞用の植物まで,植民地のみならず世界中から収集された。Kew gardensはそのような背景のもと,多くの植物が集められていて,植物を見るのが好きな筆者には外せない場所である。夏の盛りの季節であったから,屋外の庭園には様々な木々や草花たちが今を盛りに咲き誇っていた(図13)。感心したのはよく手入れされている庭園内に,昔からまるで自生していたかのように珍しい木や草までもすくすくと育っている様子だった。実は人工的でありながら人工的に見せないイングリッシュガーデンの伝統を垣間見た思いである。もちろんバラのコレクション(図14)も忘れてはいけない。バラ園の向こう側には大温室が建ち,熱帯の植物たちが育てられていた(図15)。このガラスと鉄骨の大構造体も産業革命の贈り物である。当時は王侯貴族たちだけが持つことのできた斬新で高価なガラスと鉄の大温室も,今は農業ハウスに変貌してわれわれに広く恵みをもたらしてくれている。
 庭園内で虫の視点で空を見上げたシーン(図16)は筆者のお気に入りの1枚である。
 ところで,われわれの身近にある園芸種の花々の祖先たちも,もしかしたら案外プラントハンターたちの手によって地球の片隅から連れてこられ,今,世界中に広がっているのかもしれない。日本国内ではそろそろ紫陽花の季節が訪れようとしているが,紫陽花の原産は日本である。江戸時代,博物学者でもあったシーボルトは紫陽花をHydrangea otaksa(ハイドランジア オタクサ)という学名をつけて西洋に紹介している。日本人妻の滝の名がつけられていることはよく知られている。近頃,花屋の店先でよく見かける華やかで豪華な西洋紫陽花は,日本からわたった原種に品種改良が重ねられて,再びわれわれの手元に届いているといった具合である。われわれも気づかぬところでプラントハンターたちの恩恵を受けているのであろう。
 CAT,テート,キューガーデンはどれもが単独で旅の目的として十分魅力的な訪問地である。しかし,ビンボーアーティストにとってはそれだけのために出かけるには少々ハードルが高すぎる。それが国際会議に出かけると“ついでに”いろいろな地を気軽に訪ねる機会に恵まれる。これが会議に出席する時の楽しみであり醍醐味でもある。ところが,この3年間,パンデミックは多くの会議をリモート化し,現実の旅に出かける機会がまったく失われてしまった。実に残念でならない。一日も早く収まってほしいと願うばかりだがいつまで続くのであろうか。

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