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第30回 国際ディスプレイホログラフィーシンポジウム・ISDHは世界をめぐる

懐かしいボストン


 レイクフォーレストから独り立ちしたISDH(詳細は本誌2021年7・8月号掲載)は,その後もノースウェールズ(イギリス),深圳(中国)と続き,2012年にはMITメディアラボ(図1)で開催となった。MITは久しぶりの訪問であったが,広大なキャンパスは昔から変わらぬ懐かしい景観とならんで近代的でモダンな建物の一角も出現していた。メディアラボの建物内は近未来的で実に快適な研究空間の環境で,上層階の外に張り出したテラスからはチャールズ川を挟んでボストンの高層ビル群が展望でき,開放感あふれる風景が広がっていた(図2)。
 前回,前々回では,参加者はみな各自ホテル住まいであったが,MITでは久しぶりにキャンパス内の学生寮が使用可能となり,物価の高いボストンということもあって,多くの参加者たちはレイクフォーレストでのキャンパス内カンヅメ滞在を彷彿とさせるなつかしい学生寮滞在を楽しんだ。会期中は毎晩誰かの部屋が解放され,飲み物(ビールなど?)を片手に誰ともなく集まって議論に熱中した。ある日などはつい盛り上がり過ぎてワイワイガヤガヤしていたら, 近隣(寮にはISDH関係者でない人たちも多く滞在している)から通報され,寮管理者から大目玉を食らったことも,学生に戻ったような体験に参加者たちは皆楽しんでいた。

パルスホログラムによるアート表現


 毎回何をテーマに発表するか思案に暮れる。この回はパルスレーザーのホログラムに絞って話すことにした。パルスレーザーによる撮影では瞬間のシーンが記録できる。動きのあるもの,液体などの流動体などが可能となる。最初のパルスホログラムの撮影は,東京工業大学辻内研究室での研究生時代に撮った玉子を割って黄身が落下しているシーンである(図3)。白身はまるで硬質なガラスのように見える。比重の異なる透明な2つの液体(水と油)が入っているビーカーに水を注ぐシーンが図4である。レーザー再生ホログラムは奥行きのある像も実に鮮明に像が再生される。落下する水は帯のように空中に連なって留まり,2液の境界面は複雑な様相がはっきりと観察できる。フリーズした透明なガラスのような水を通して見える背景は,視点を移動するとまるでレンズを通して見ているように変化する。日常の私たちの目では決して捉えられない不思議なシーンがそこには現出している。おもしろいことに毛糸や羽毛など柔らかな素材のリアルな再生像(図5)は,本物を見ているときと同様の暖かさや柔らかさが感じられる。図6は布と人体の15以上の異なるイメージをマスターホログラムとしたマルチカラーマルチチャンネルホログラムである。図7(a),(b)はどちらも羽毛が空中に舞う瞬間を撮影したホログラムである。(a)は銀塩の反射型タイプ,(b)は10以上の異なるイメージのマスターホログラムから透過型に仕上げた作品である。

展覧会The Jeweled Net


 同時開催のホログラフィー展The Jeweled NetはMIT museumで展示された(図8)。主催はMIT museumで出品作品は事前に集荷され,会場づくりもスタッフらによって事前に進められた。入口に展示されたホログラム(図9)は歴史的に有名な,最初のウインドウディスプレイとなった「Hand in Jewels」(18×24 inch,レーザー透過型ホログラム)である。1972年NY5番街のカルティエのウインドウディスプレイのために制作された。ダイヤモンドのブレスレットを持った手がウインドウの外に飛び出す様子は,道行く人たちを楽しませたに違いない。
 筆者の展示作品はパルスレーザーで撮影された15以上の異なるイメージが記録された大型のマルチカラーマルチチャンネルホログラム「Body with Fabric B」(図10)である。視点を移動すると色彩だけでなくイメージも多様に変化する。観る位置を変えて様々な視点からホログラムをのぞき込む鑑賞者の様子が図11から見て取れよう。ホログラフィー展で観客がホログラムと対話(?)している様子を眺めるのは実に愉快だ。この展覧会はこの後1年以上継続して同museumで展示され,このホログラム(図10)は筆者の5番目のMIT museum収蔵作品となった。 <次ページへ続く>

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