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第30回 国際ディスプレイホログラフィーシンポジウム・ISDHは世界をめぐる

苦労に無駄は無い?


 この回では発表者の簡単なabstract集のみでProceedingの出版はなく,筆者は提出したfull paperが徒労であったかと残念な思いであった。ところが,2年後なんとSpringer Nature(世界最大の学術出版)の編集者からコンタクトがあった。サンクトペテルブルグに提出した論文Holography as an Architectural Decorationに興味を示し,Encyclopedia電子版と印刷本のHolographic Display for the Encyclopedia of Computer Graphics and Games(ECGG)の項目への原稿依頼が舞い込んだ。与えられた文字数はオリジナル論文の約4分の1だったので短縮に苦労したがありがたく受け入れた。
 苦労に無駄はなく,必ず次の何かへとつながっていくことを学んだのであった。

イースターエッグ


 同時開催の展覧会「Magic of light」については本連載の第8回,2019年3・4月号でふれたが,アートホログラムのほか,博物館の宝物類の記録としてのホログラムが多数展示された。なかでも注目を集めたのは,インペリアル・イースターエッグのホログラムであった。インペリアル・イースターエッグとは19世紀末から20世紀初めの約30年間,毎年ロマノフ王朝ロシア皇帝に納められた宝石で装飾された金製の卵型の飾り物のことである。豪華なだけでなく様々なからくりや仕掛けが施され,実に興味深いエッグたちである。これらを撮影したフルカラーの反射型ホログラムは実物と見まがうばかりの再現性の高い像に多くの観客たちは驚いた。撮影時の話だが,宝物類の保管場所に撮影機材を持ち込んでの作業であったようだが,撮影作業中はずっと監視員が片時も宝物から離れず立ち会っていたそうだ。それまでホログラフィーについて知らなかった人々にとっては暗室での作業になにやら不安を覚えたのも無理からぬことである。

初めてのポルトガル―満開のジャカランタ


 ロシア開催から3年後の2018年,ISDHは順調にポルトガルのアヴェイロ大学で開催された。アヴェイロはリスボンとポルトの間に位置し,リスボンから特急列車で約2時間の大西洋岸に面した干潟に建てられた街で,ポルトガルのベネチアといわれる都市であった。開催地を知った時,初めてのポルトガル訪問であることと海の幸が楽しみで心躍った。
 アヴェイロに列車で移動する前,リスボンに数日滞在することにした。空港からホテルにたどり着いて驚いた。ホテルの前は紫の美しい花を満開に着けたジャカランタ通り(図21)であったのだ。ジャカランタの花を初めて目にしたのはサンパウロで,美しい薄紫の花が枝一面に咲き誇るさまはまるで紫の満開の桜の木を見ているようだった。美しい花の歓迎に大満足したポルトガルの旅の始まりであった。
 筆者の発表は2016年ホロセンター・アートグラントで制作したホログラムについて述べた。このアートグラントを授与された6人の作家たちによるパリとニューヨークでの作品展については前回(本誌2022年9・10月号掲載)述べたとおりである。「自然のかけら」(図22)のイメージは,これまで数多く自然をモチーフとして制作してきた一連の作品の延長線にある。初めは自然の“もの”,貝(図23)や玉子(図3)に始まり,自然の一部を切り取る植物シリーズ(図16,図17,図24 ,図25 ,図26) へと興味が移っていった。そんな折,ゴッホの没後100年を記念した1990年,オマージュゴッホ展が企画された。現代アート作家たち5人によるオマージュゴッホの新作展で,筆者にも出品依頼が来た。それまで考えたこともなかった課題に,どうしたものか? そこでひらめいたのが,印象派の画家たちの目線に立って,現代のホログラフィー技術を用いたらこのような表現もあり得るのではと考え,点描のようなブラッシュワークの絵画的手法を用いて,光の塊が3次元空間に散らばる風景の空気感の表現を試みた(図27)。これを機にブラッシュワークの表現の面白さに目覚め,それからはブラッシュワークと植物の混合モチーフで構成して風景を連想させるイメージの作品へとつながっていった(図22 ,図28)。自然のかけら(図22(a)~(f))は視点の移動によって変化するイメージバリエーションである。観る人は1枚のホログラムから,夕焼け,薄暮,春や冬景色など様々なシーンを連想いただけたら嬉しい限りである。 <次ページへ続く>

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