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第22回 国際ディスプレイホログラフィーシンポジウム・ISDH ― 始まり・レイクフォーレストカレッジ ―

昼も夜も


 会期の全日程は5日間(月~金)である。近隣から講演に通う参加者などを除くと,ほとんどの参加者は,宿泊用にキャンパス内の学生寮が準備され,食事は3食,学内のレストランでとる。基本的に会期中はずっとカレッジ内に滞在(ほとんどカンヅメ状態)することとなった。アメリカ国内の多様な州や南米,ヨーロッパの国々からの参加者が皆一緒に5日間,昼も夜もキャンパス内で時間と空間を共有し,まさに寝食を共にし,同じ釜の飯を食べる感覚を味わうことになった。もっともキャンパスの周辺はその名(湖と森)の通り,一軒のビアレストランを除けば緑深く何もない環境で,エネルギーの余っている人たちは夜,湖に泳ぎに行くか店に出かける以外,行き先がなかったというのがホンネだった(笑)。このシンポジウムの形式は,以後TJ がカレッジを退職する1997年の最後の開催まで続けられるのだが,ここで育まれた連帯感は国際的なディスプレイホログラフィーのコミュニティーが作られる大きな礎になったにちがいない。

短パン!!


 講演会初日,TJが初登壇するとそのファッションにびっくりした。なんと短パンという,あまりにカジュアルなスタイルで現れたのだ(図3)。夏のリゾート地のミーティングといった風情に,日本人の私は少々面食らった。以来,多くの参加者はみなTシャツ短パンといったリゾートファッションで,私もすぐにアメリカ文化をエンジョイすることになった。講演会場のオーデトリウムの建物周辺も緑多い環境である。休憩時間や講演を抜け出しては,参加者たちは思い思いに木陰や芝生でくつろぐ。このような環境はなかなか心地良く,参加者同士の貴重な情報交換の機会でもあった(図4)。  ファッションや環境はともかく,このシンポジウムが特別である理由は,技術,教育,アート,ビジネスというように,ディスプレイホログラフィーが内包する多様な切り口をすべて網羅し,総合的に扱っていることである(5日間あるのはそのためであって,決して長くはない)。特に,技術分野と並んでアートのジャンルに大きなウエイトが置かれていたことに感心した。それまでに,技術とアートが同時に取り上げられる状況は,私の知るかぎりほぼ皆無であった。また,いろいろな分野の人ができるだけ多く気軽に参加できるようにという意図であろうか,開催時期が夏季休暇シーズンであること,参加費はかなり低く抑えられていることも印象的であった。そのうえ,アーティストは特別に優遇されていたようである。ビジネスパーソンや大学関連の参加者に比べ,フリーランスが多いアーティストの経済的状態を理解して優遇処置がなされていた。グラントのようなもので,選考は主催者の独断で決定され,選ばれたアーティストは参加費が全額免除されたのである。ありがたいことに筆者は参加費を支払った記憶がない。もっとも,私費での渡航費は参加費に比べれば一桁違いに高くかかったが…(笑)。
 さらに,シンポジウムと並行してホログラフィーアートのエクジビションが開催された。ホログラフィーアートにいかに力が注がれていたか,このことからも理解できよう。会場となった建物は19世紀末のロマネスク様式の大学の歴史的建物Durand Art Institute(図2)で,中のアート展示のための施設Sonnenschein Galleryで,参加アーティストのホログラム作品が展示され,カタログも制作された。第1回のカタログ表紙は面白い工夫が凝らされている(図5)。カバーの透明フィルム(図5(b))にも表紙(図5(c))と同じ放射状の縞パターンが印刷されている。背表紙はリングで綴じられかなりルーズな状態になっているため,カバーと表紙両方の放射状の縞パターンが重なるとずれて動くモワレが現れる(図5(a))という趣向だ。この展示には,私はNYのMOH(Museum of Holography)で制作したばかりの「す・ら・めーる」(図6)を出品した(このホログラム制作にまつわるエピソードは第4回,本誌OplusE Vol.40, No.5, 2018に詳しく掲載)。
 図7は第3回のカタログ表紙である。この時の出品作品はダイクロ反射型(図8(a))と銀塩反射型ホログラム(図8(b))である。ダイクロ作品はリップマンホログラムを2枚貼り合わせてダブルイメージとし,ホログラム(ガラス)面の前後に結像する。銀塩のホログラムはイメージタイプで,やはりイメージはホログラム(ガラス)面の前後に結像する。まず,マスターとなるホログラムをパルスレーザーで羽毛を撮影した。そして,マスターホログラムの像をオブジェとして反射型に仕上げたホログラムである。1987年に10か月間パリに滞在していた時,スウェーデンのストックホルムのパルスのホログラムスタジオで制作したものである。出品には毎回,できるだけその時々の最新の作品を展示するように心がけている。 <次ページへ続く>

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