【重要】OplusE 本体価格・定期購読料金改定のお知らせ

第18回 台湾交流録 part 4 次から次へ

恵みとトレードオフ-亜熱帯の夏


 熱帯から亜熱帯地域に位置する台湾では,ガジュマルの木も100年もするとこんなに成長する(図1)。夏,店先には旬の果物が所狭しと並び,フルーツに目のない筆者はつい触手を伸ばして,ホテルの部屋はいつもこんな状態だ(図2)。ライチは枝の束で売られ,パパイヤやマンゴーは量り売りで,うっかり値札に書かれた単位を注文すると,(なんと贅沢にも)旅人が1人ではとうてい消費できない量を手渡されることになる。そんな時は,買い物に付き合ってくれた知人にいつも半分おしつけて持って行ってもらう。安価で美味しいフルーツがふんだんに手に入ることは,最高の魅力の1つだ。ところで,6月の雨季が終わり7月に入ると,早くも台風シーズンが始まる。7月はじめ,滞在中に出くわした台北を襲った台風は,街路樹を軒並み幹ごとボキッとなぎ倒した(図3)。木々の成長が早いはずの台北の街中で,あまり大きな街路樹を見かけないのはこんな理由も一因かと一人合点した。夏はまさに高温で雨が多い多湿の気候なのだ。
 2009年9月,Dr. Hsiehから届いたメールには写真(図4)が添付されていた。2か月前に設置完了したばかりの“Grassland”が無残にも波打ってしまい,緊急避難として取り外して,現在は空調の利いた実験室のテーブルにフラットにして保管しているという。そんな…。大きな衝撃だった。
 “たかが波打ったしわ”と言うなかれ! 何故せっかく取り付けたホログラムを即取り外し,実験室に保管しなければならなかったか。それはホログラムの原理に由来する。一般的に,絵や版画や写真など(失礼な言い方をお許しあれ)は,少々の波打ちが生じてもさほど見栄えや評価に影響はなく,神経質になる必要がない。ところが,ホログラム像は光学的物理現象で生成されるため,フィルムのしわはゆがんだレンズを通して像を見ているのと同じ現象を引き起こす。レインボウホログラムは像のゆがみとともに,色彩にもムラが現れ,見栄えの悪さへの影響はさらに顕著となる。原画とは似ても似つかぬひずみゆがんだ像の出現を目にした時,どんなに驚いたことであろう。ホログラムへのダメージを考慮しての処置であった。
 設置された場所は玄関ホールで,人々の出入りとともに常に外気にさらされている。亜熱帯の高温多湿の環境下で,雨による湿気や昼夜の温度変化の影響をダイレクトに受けることは想定内であった。設置にあたって一番気にかけていたのは,湿気による感材の膨潤やカビの発生などゼラチンへの直接の影響であった。知らせを受け取るまで,フィルムの波打ちがこれほどの短時間で顕著に出現するとは,不注意にもまったくの想定外であった。

重い宿題


 展示用には,これまで常にアクリルでフレーミングをしていた。高分子化合物は多かれ少なかれ水の分子を通過させ湿気の遮断には適さない。それに比べ,ガラスは湿気を通さないが破損や重さなど,安全性や運搬,設営などの利便性が欠けるため,展覧会の展示用には現実的でなかった。アクリルでサンドしたフィルムも,時の経過とともに波打ち現象が見られたが,平面性が高く湿気を通さないガラスにしっかりサンドされたフィルムなら,波打ち現象も許容範囲に収まるのではないかと,私は安易に楽観的に考えていた。その甘い考えが大失敗を招いた。考えられる原因として,①中間に空気の層がある合わせ方では,熱膨張率の異なるフィルムとガラスはそれぞれ自由に膨張収縮を繰り返す。不具合なことに,アクリルよりさらに1桁も膨張率の小さいガラスが外側であるため,伸びたフィルムは平面性を保てずに波打ちしわが現れた。②湿気の影響を避けたいからガラスを選んで使用したが,3枚の端面は特にシーリングなどで密閉をしなかった。徐々にではあるが,この端面から湿気が侵入し,感材のゼラチンを膨潤させる。いったん入り込んだ湿気は,外気の湿度が下がっても,ガラスでサンドされているため,湿気が逃げづらくなってしまった。いずれにしろ,ガラスが悪影響を増幅させたようだ。後日,空調の利いた部屋に保管されて数週間後の写真も送られてきたが,しわの深さが多少減少しているように見えた。私はDr. Hsiehに,「すぐには解決策がないので,しばらくその環境下で保管してほしい。最善の方法を検討するので時間が欲しい」と返事を出した。私は大きな宿題を抱えることになり気が重くなった。
 しわの解決策は,フィルムをアクリルやガラスにラミネートすることである。アメリカのホログラフィックスノースでは,大型のフィルムホログラムを常に感材面側だけアクリルにラミネートしていた。ガラスに比べると重量もさほど重くならず,展示の利便性にも優れている。しかし,筆者の私見は,素材の耐久性や湿気の透過を考慮すると,片面アクリルではなくフィルムを2枚のガラスに挟んでラミネートする方法がより望ましいと考えている。この加工方法は,国内ではすでに実践済みで,東京工業大学の百年記念館博物館に設置されている作品がその例である。試行錯誤を繰り返し,やっと実現した加工技術であったが,メーカーや技術者の状況が変わり,発注すればすぐに加工が実現するという類いの環境下ではなくなっていた。現地での加工はまったく無理な話だ。多くの工事費や労力を費やして実現した常設作品が,数か月も経たずにお蔵入りとは悲しい。さてどうしたものかと思案に暮れながら,時が過ぎていった。とにかく,ホログラムのラミネート加工が可能なメーカーを探すことが最重要課題であった。手を尽くし,やっと,ホログラムの加工は初めてだが,最適の素材と方法を実験し探し出すことに協力してくれるというガラスメーカーにたどりついた。加工のめどがたったのは2012年である。取り外されてからすでに3年が経過していた。

<次ページへ続く>

ホログラフィーアートは世界をめぐる 新着もっと見る


本誌にて好評連載中

一枚の写真もっと見る