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第2回 不完全な記憶・Encounter“出会い”

 翌1979年,箱根彫刻の森美術館が主催の「第一回ヘンリームーア大賞展」と題する野外彫刻のコンクールがスタートした。
 無謀にも私はこのコンペに応募し,そして,なんと首尾よく入選してしまい,実物を制作しなければならない羽目に陥ってしまった。
 このコンクールには,高額な賞金が掛けられていた。コンクールの魅力は,グランプリの賞金額である程度判断できる。野外の立体作品の制作費は,どんな素材であれかなり高額であろうことは想像に難くない。売れっ子作家たちでも実物の野外彫刻作品を制作できるチャンスは魅力的である。そのため,大賞を目指して多くの作家たちが応募する。このコンペはヘンリームーアを冠しているので,それまでのこの美術館の“具象彫刻のコンクール”とは異なり,実験的な現代彫刻も受け入れようとしていると思われた。
 白色再生(レインボウ)ホログラムには,太陽光は理想の再生光源である。どんなに明るい野外でも,太陽光で再生すれば明るい画像が再生される。通常のホログラムの展示では,いつも黒壁や暗室のような部屋がつきもので,そのことに大いにフラストレーションを抱いていた私は,野外彫刻でホログラムを組み込めば,これまでにない全く新しいコンセプトの実験的な環境彫刻作品が実現できるではないかと考え,このコンクールに応募を試みたのである。
 彫刻展のコンペというのは,まず,マケットと言われる縮小された模型で応募し,入選作品が審査される。入選作に選ばれると,支度金として制作費の一部となる一定額が美術館から支給され,マケットに沿って実物を制作しなければならない。そして,実物が完成した時点で,賞が審査され,受賞作品には賞金が授与されて,展覧会の終了後は常設作品として収められる。多くの場合,支度金は制作費のほんの一部の足しにしかならない。作家たちはグランプリを目指して,つい予算は二の次で制作してしまうが,これはアーティストの性といえよう。賞金はニンジンがぶら下がっているようなもので,結果的に力作が多く集まるという構図だ。
 いかにこの応募が無謀であったかというと,第一は,マケットとして「不完全な記憶」を提出したことである。マケットは大体一辺が50 cm以内の立方体に収まるサイズと決められている。この立体は,マケット用にぴったりのサイズであった。しかし,照明とワンセットに仕上げられず,傍にスポットライトを添えるだけだった。一応,説明書に,「これこれの角度で照明をホログラムに当ててください。見る位置はこれこれの場所から見てください」云々と添える。しかし,照明を当てなければ,ホログラムはただの半透明のフィルムだし,模型は変な形のただの立体に過ぎないのである。おそらく審査委員のほとんど誰も,ホログラムを知っているとは思えない。いったい,いかほどの委員が注意深くこの説明書を読んでくれるのであろうか?
 第二の無謀は,アイディアとして提出した完成作品を制作する道筋が全く見えないまま応募したことである。25 cm×30 cmのホログラムは制作できたが,大きなホログラムを制作できるめどは全く立っていなかった。
 それなのに,なんとマケットが入選してしまったのだ。私はこれには本当に驚いた。

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