【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

歴史を学び,現在を把握し,未来を予測しながら,次の技術目標を定める久保 友香

自分にとっての一貫性など,なくてもいいのかもしれない

聞き手:これから活躍を目指す若手研究者・技術者,学生に向けて研究の面白さなど,メッセージをお願いします。

久保:私が取材対象にしているプリクラやスマホアプリで画像を加工し,SNSなどで積極的にコミュニケーションしている女の子たちも,自己をすごく意識した発言が多く,個性を出したい,自分らしくありたいと言います。でも,「自分らしさって何なの」と突っ込んでいくと,明確にならないことが多いのです。人はそういうものなのだと思います。人というのは,常に変化に応じ,周りとの関係のなかで出来あがっているものです。社会環境やメディア環境,まわりの人々が変わったりすると,コミュニケーションも変わっていくのは必然なことで「一貫した自分」というものはないのかもしれません。そういう環境変化に適応していくことが大事で,取材対象としている女の子たちは適応していくのがうまくて,私も真似したいと思わされます。研究者や技術者は,常に普遍性を追求しているので,自分についても一貫性をもとうとする傾向がないでしょうか。私自身も,これまで述べてきたように,小さい頃から数学が好きで,だからこうやりかたをしていますということをつい考えてしまいます。でも,そんな一貫性などなくてもいいのではないか。そんなことをインタビューした方たちから学ぶことがあります。
 一方,環境の変化に振り回されず,一貫した目標に向かうという意識も,失ってはならないと思います。工学研究では,処理や伝達の速度の向上とか,変換効率の向上とか,古くから継承してきた物差しのなかで,皆が同じ技術目標に向かって前進しようと一生懸命取り組んできました。日本のモノづくりが本当に素晴らしく成功してきたのも,そういうやり方をしてきたからではないかと考えていて,とても大事なことだと思っています。
 そういったなかで私自身が心がけているのは,歴史を学び,現在を把握し,未来を予測するということです。歴史から現在に引き継がれるパターンを明らかにし,そこに新しい技術が加わるとどう変わっていくのかをシミュレーションするのです。今の若い学生さんたちは現在を知るだけでも情報量があまりにも多いので,どうしても現在に振り回されがちになるのではないかと思います。どこかで新しいディープラーニングのプログラムが発表されたとなると,それを試さないといけないので,仕方ないとは思いますが。しかし,歴史と未来も視野に入れた上で,それが何であるかを考える時間ももったほうがよいのかなと考えます。
 また,例えば,今だとあらゆることをスマートフォンの中で行うので,何か目標達成しようとする場合もスマートフォンの中でどうするかと考えがちです。しかし,スマートフォンだってこの先いつまであるかはわかりません。技術開発にはある程度の時間がかかるので,やっているうちに流れが変わってしまうことも多いです。それを回避するためには,ズームアウトして,歴史と未来を視野に入れ,普遍的な真理をとらえることと,ズームインして,現実の環境変化に揺られながら適応していくこととを,行ったり来たりして両方を常に行うことが重要なのではないでしょうか。
久保 友香

久保 友香(くぼ・ゆか)

2000年 慶應義塾大学理工学部 システムデザイン工学科卒業
2002年 東京大学大学院新領域創成科学研究科修士課程修了
2006年 東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了
2006年 博士(環境学)取得
2007-2009年 東京大学先端科学技術研究センター特任助教
2012-2014年 東京工科大学メディア学部専任講師
2014-2019年 東京大学大学院情報理工学系研究科特任研究員
●専門分野
メディア環境学

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