【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

光にこだわり,共創共生で地域から世界に発信していきたい株式会社フォトニックラティス 大沼 隼志

14年間共同開発を進め,今では皆経営チームの一員に

聞き手:大沼さんとフォトニックラティスとの出会い,そこでの高速偏光イメージセンサーの開発の苦労などを教えてください。

大沼:偏光イメージセンサーの最初のステップは,具体的な新規製品やビジネスのアイディアを出す「産みの苦しみ」でしたが,次にそれを「形にしていく苦しみ」があります。誰とどのようにすれば実現できるか仮説を立て,実際のモノづくりに向け,チームビルディングと商品開発が始まりました。はじめにフォトロン社内でプロジェクトチームとして2名からスタートさせていただき,いい意味で身軽になり,まず偏光カメラが実現可能であるかどうかの調査を始めました。国内外の展示会や文献を調べると同時に,私も30歳になり,画像処理や光学の業界で知り合いもできていましたので,いろいろな人に聞いて回りました。そこで,アメリカと日本の企業の候補が3社くらい上がりました。海外に外注すると,できたものしか見えません。偏光をより深めていくためには,できる過程を見ながら調整し,一緒につくれる日本企業がいいと思いました。さらには偏光素子の可能性を拡げる波長板アレイまで実現できているのが,当時はフォトニックラティスだけだったのです。
 そこで,仙台の青葉区にある会社を訪ね,現在取締役を一緒にやっている川嶋さんたちに,こんなカメラをつくりたいとプレゼンをしました。それが2007年です。偏光素子技術としては確立していたため1年くらいで試作できると思っていたのですが,実際には2年半から3年かかりました。特に,偏光イメージセンサーには2年かかりました。偏光素子とイメージセンサーを接続するのはたいへんで,一桁マイクロメートルの精度で水平方向や傾きをすべて制御しなくてはならず,挫折しかけたこともありました。そうしたことを乗り越えて,1つのチームのような雰囲気ができました。私はフォトニックラティスの社長をさせてもらっていますが,常勤の取締役の3名は,それからの14年間,一緒に共同開発し,ビジネスを拡げてきたメンバーなのです。今では経営チームで一緒に会社のマネジメントをするようになり,たいへん嬉しく思っています。
 フォトニック結晶は2種類の材料を交互にスパッタする多層膜です。その2種類の材料の屈折率の違いで複屈折を出し多層膜にすることで,複屈折を大きくして位相をコントロールしています。特に,多層にする中で,膜を作ってはエッチングをし,エッジを保持しながら多層膜を作るという成膜プロセスを確立したことが,フォトニックラティスの1つの強みになっています。素子によっては1枚を作るのに数日間成膜が必要なものもあります。偏光カメラとして試作が完了するまでの2009年前半まで,素子の試作ができるたびに仙台に行っていたので,隔週のように通っていました。

偏光の知識を学ぶため社会人ドクターに

聞き手:お仕事をされていくなかで苦労されたエピソードなどございましたらお話しいただけますでしょうか。そして,その困難をどのようにして乗り越えられたのでしょうか。

大沼:偏光カメラをつくれば必ず市場はあるはずという確信はあったのですが,実際に偏光カメラで撮影して映像を見てみると,その解釈ができないのです。それは当たり前で,自分に光の基礎知識や偏光の知識がないからです。大学の先生にいろいろ相談していたところ,大谷幸利先生が東京農工大学から宇都宮大学に移り,国内初の偏光に特化をした講義を始めるから社会人ドクターで来てみたらと誘ってくださったのです。そこで,2011年4月に,フォトロンからの理解と支援を得て,宇都宮大学のオプティクス教育研究センターという,光で学位が取れるコースに入らせていただき,社会人ドクターとしての3年間を過ごすことになりました。
 偏光の知識が少しずつ高まり,研究者の方々とコミュニケーションも取れるようになり,フォトロンの企業側のチームのメンバーと一緒に日本全国を回って,偏光という分野に関わりそうな材料メーカーや研究所で生の声を聞いていきました。当時,液晶ディスプレイの大型化やスマートフォンの普及が始まってきていました。液晶ディスプレイに入っているフィルターやガラスの光学材料では,従来のレーザーを使った「点」の検査ではなく,「面」の検査による品質保証が重要になっていくとわかり,偏光イメージセンサーによる複屈折の面内分布をマッピング検査する新たな装置をつくるという方向性が決まりました。
 社内で人材を探し,機構設計や電子回路設計者,光技術者,ソフトウェアエンジニアの協力を得て,開発と試作を進めていきました。試作が完了し,2012年頃に複屈折のマッピング計測ができるというコンセプトでディスプレイ関係の展示会に出展したところ,非常に多くの集客があったことから,商品開発を加速していくことになりました。また,社会人ドクターで学んだことの1つに,産学連携の重要さがあります。先生方が産業の出口を見つけたいときに,産業側にいる自分たちが先生方とディスカッションすることで,先生方の研究のラストピースがはまったり,企業側も技術のシーズがどこまで進んでいるのかを教えていただいたり,非常に良い関係を築けるようになってきました。産学連携はこれからますます必要で,そこを橋渡ししていく機能が企業側に必要だと実感していきました。
 こうして複屈折検査装置をつくり,ディスプレイ関係の材料メーカーに販売していくことができるようになりました。創業者の川上先生は80代になられ,会社を持続させるために経営体制を次世代に引き継いでいくために,2020年にフォトニックラティスはフォトロンのグループ企業入りすることになりました。私は2021年に社長にならせていただいて,「光にこだわる会社」という経営ビジョンを新たに掲げました。また,産学連携や海外業務などから得た経験をもとに,多様な人々,技術,地域とつながって大きな価値を共に創造していく取り組みが将来さらに重要になると考え,「共創」「共生」を会社の方針として掲げました。フォトニック結晶にとどまらない独自の光の技術で,世界で輝けるような会社を目指していきます。特に,東北の仙台市に本社を置くことで,ローカルから世界に発信していくメーカーの1つのモデルを示していければと考えています。

2018年 NIST(アメリカ国立標準技術研究所)で偏光カメラの共同実験


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大沼 隼志

大沼 隼志(おおぬま・たかし)

1999年 新潟大学工学部電気電子工学科卒業
1999年 株式会社フォトロン入社
2014年 博士(工学)宇都宮大学
2017年 株式会社フォトロン 光学計測部長
2021年 株式会社フォトニックラティス 代表取締役社長(現職)
2021年に株式会社フォトニックラティスは株式会社フォトロンの子会社化
株式会社フォトニックラティス:https://www.photonic-lattice.com/

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