【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

光にこだわり,共創共生で地域から世界に発信していきたい株式会社フォトニックラティス 大沼 隼志

高速度カメラに技術的な付加価値をつけ差別化を図る

聞き手:理工学分野に興味をもたれたきっかけについて教えていただけますでしょうか。

大沼:小学校から中学,高校にかけては,数学,算数が好きだったということもあり,自然に勉強も進みました。私のおじが物理学者で,小学生の頃に,数学や物理の話を聞かせてくれ,それが面白かったということも影響しているかもしれません。当時は,ソニーや東芝,トヨタといった名だたる企業のもと,日本は技術に優れた国という印象があり,大学進学では工学部の電気電子工学科を選びました。
 しかしながら,目的がしっかりとしていない漠然とした状態で工学部の電気電子を選択したため,大学時代は教科書を読んでテストを受けていても,理工学分野の次のステップへの自覚やイメージはわきませんでした。それでも,オーディオメーカーのバイトで家電量販店に派遣され,そこで各メーカーの営業技術の方に話を聞くうちに,製品を使う側から作る側になったら面白そうだと,メーカーで働きたいという思いが出てきました。
 ものづくりでは,完成されたものよりは,一から自分でつくりたいと思っていたので,組織も大企業より中小企業,技術的にはニッチでもいいので,応用範囲が広がりそうな特徴的な会社に行きたいという希望がありました。写真や光が好きだったこともあり,高速度カメラというニッチですが技術的にユニークで,それを世界に販売をしている(株)フォトロンに入社させていただくことになりました。
 工学部出身だったので最初は開発を志望していたのですが,営業の配属となりました。同期は12名で,今でも深いつきあいのある優秀なメンバーに恵まれ,その中で6名が営業に配属されました。営業のメンバーの力量は皆高く,基本的なところではかなわないと実感したため,彼らの良いところを真似しながら,とにかく多くのお客様を回ろうと決め,営業をスタートさせました。
 当時,営業チームの中では,私は唯一の理系出身者だったので,技術的な部分で高速度カメラや商材に付加価値をつけ,自分としての差別化を図っていくようにしました。高速度カメラはまだまだアプリケーションの開拓が発展途上でしたので,面白そうな光学機器をいろいろ調べ,高速度カメラと組み合わせて,お客さんに技術やシステムの提案をするようになりました。自動車メーカーや材料メーカー,大学研究所などに行く機会が多くなり,可視化や画像計測などに協力させていただいた結果,企業の担当者から新商品の開発に役に立ったとか,大学の先生から良い論文が書けたと言われるようになっていきました。それが1999年に22歳で入社してから3年から5年目にかけてのことです。

フォトニック結晶という独自技術の開発に成功

聞き手:フォトニックラティス様は,2002年に東北大学発ベンチャー企業として創立し,独自光学技術をもとにビジネス展開を行っているメーカーとのことですが,その経緯について教えていただけますでしょうか。

大沼:私とフォトニックラティスとの出会いは2007年になりますが,フォトニックラティスを語るうえでは,創業者の川上彰二郎先生が中心となります。川上先生は東北大学の電気通信研究所にご自身の研究室をもち,通信や物理を研究されていた教授です。1997年に自己クローニング型フォトニック結晶というナノスケールの光学の周期構造を製造する独自の技術を見出し,それを形にすることに成功しました。川上先生は,大学の研究者でありながら,開発した技術を実用化につなげていくマインドの高い方で,この技術は将来産業的に活かせるのではないかという直感があり,退官までの5年の間に基礎技術や応用技術を進めました。最終的にはご自身で世の中に広めたいという希望があり,65歳で退官したと同時に研究室のメンバーだった助教やポスドクの方々と一緒に,東北大発ベンチャーとして2002年に(株)フォトニックラティスを設立しました。
 川上先生は非常にパワーのある方で,65歳で起業してから来年で20周年になり,現在,先生は85歳になります。まさに第二の人生で会社を創り,設立してからいろいろご苦労もあったとは思いますが,東北大学だけではなく,仙台市の地域の方や共同研究した企業から支援をいただいて,ずっとここまで走って来られました。設立はごく少数でされ,特に最初の2~3年は,会社としてフォトニック結晶素子を量産できるようにするため,社内でも研究していたと思います。その後,大学発ベンチャーとはいっても,やはりビジネスにしていかなくてはいけないので,外にアンテナを張って踏み出していきました。ほぼその直後,私も新しい製品を形にしたいという思いがあり,まさにご縁があって出会ったことになります。
 フォトロンとフォトニックラティス,そして私自身を結びつけたキーワードは,高速度偏光イメージセンサーです。2006年,30歳のときに,私は営業から製品企画に異動になっていました。そこで様々な経験を積ませていただき,高速度カメラがどんな技術で構成され,その本質は何かを考えていった先に出てきたのが光でした。光には,振幅,波長,偏光という三要素があります。振幅は明るさで,明るさを捉えるカメラは世の中にあります。波長も,赤外線カメラやX線カメラなど,世の中にあります。ところが,偏光は,当時,まだカメラはありませんでした。そこで,自分たちの製品にも関係ある光というキーワードで,その中でもより広がりが見込まれる「偏光」に注目し,偏光高速度カメラの製品開発を企画したのです。

2016年 超モノづくり部品大賞(にっぽんぶらんど)賞受賞


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大沼 隼志

大沼 隼志(おおぬま・たかし)

1999年 新潟大学工学部電気電子工学科卒業
1999年 株式会社フォトロン入社
2014年 博士(工学)宇都宮大学
2017年 株式会社フォトロン 光学計測部長
2021年 株式会社フォトニックラティス 代表取締役社長(現職)
2021年に株式会社フォトニックラティスは株式会社フォトロンの子会社化
株式会社フォトニックラティス:https://www.photonic-lattice.com/

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