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その時点では反論できない厳しい指摘だとしても, そこでやめてしまっては,チャンスはつかめない東京工業大学 山口 雅浩

ホログラフィーの研究がしたいと辻内研を希望

聞き手:今の分野に進んだきっかけや,大学生時代の研究内容について教えていただけますか。

山口:子どもの頃は,テレビなど近所に落ちているものを拾ってきて分解して遊んでいました。当時は真空管などもあり,そこからトランジスタをはじめとする電気に興味をもちはじめました。トランジスタの歴史を紹介した本で,半導体の不純物をどうやって取り除くかといった話を読んで,自分もトランジスタを作ってみたいと漠然と思っていました。将来就きたい職業などはあまり考えていなかったのですが,高校の時には科目の中では物理が好きだったので,大学は理学部の応用物理学科に進みました。
 高校のとき,部活動で,8ミリフィルムで短い映画を作ったことがありました。頭の中にあるものを映像で表現することは人間同士のコミュニケーションのツールとして非常に面白いと感じました。大学でも映画研究部に入って8ミリ映画を作っていました。大学4年になるときに,応用物理学科から進むことのできる研究室として,ホログラフィーを研究している研究室があることを知りました。それが辻内順平研究室です。当時はホログラフィーのことはよく知りませんでしたが,まったく新しい映像媒体の研究をしてみたいと考えて,辻内研究室を希望しました。将来,映像を使って人間の頭の中にあるイメージを具現化する手段として,ホログラフィーを使えるようになれば素晴らしいと考えました。
 ホログラフィーをやりたいと思って研究室に入ったのですが,卒業研究のテーマとして与えられたのが画像処理に関する研究でした。当時はまだコンピューターの能力も低く,画像処理をやっているところは少なかったと思います。卒業研究では,企業との共同研究で,デジタルコピー機でモアレ縞が出ないようにするため画像処理を研究しました。まだアナログコピーが全盛で,デジタルのコピー機は一般には使われていない時代でした。幸い,画像処理・光計測・ホログラフィーなどをテーマにしている研究室の先輩にひたすら質問して教えてもらうことができたので,楽しく研究を始めることができました。後から考えると,画像処理のテーマに取り組んだうえでホログラムの研究ができたことは,その後の研究を進めるうえで非常に役に立ちました。

修士の国際論文で海外に先を越される

聞き手:大学院で念願のホログラフィーの研究がスタートしたわけですが,具体的にはどのような研究をされていたのですか。

山口:コンピューターで作った映像からホログラムを作成する研究を始めました。当時は,コンピューターで計算をした結果の画像をブラウン管の画面に表示して,それを35ミリフィルムのカメラで撮影し,そのフィルムを現像してポジフィルムにし,そこにレーザーの光を当ててホログラムにするという,今から考えると気の遠くなるような作業を経てホログラムを作っていました。ちょうど液晶テレビが出始めていた頃で,コンピューターで計算した映像を液晶ディスプレイに表示して,これにレーザー光をあててホログラムを記録する実験をしていました。
 結果として,360°あらゆる角度から立体像を観察できる円筒型のマルチプレックスホログラムを,液晶ディスプレイを使って自動的に記録することに成功して,論文にまとめることになりました。当時,私は修士の学生で研究論文の書き方をよくわかっておらず,ほぼ書き終えてから英文の推敲に何か月もかかってしまいました。あるとき米国光学会の雑誌を見ていたら,液晶を使ってホログラムを作るという短い論文が掲載されているのを見つけました。研究室の先生に相談したところ,採録は見込めないということで,投稿をあきらめることになりました。1年近くの時間をかけて書いていた論文でしたから,非常に悔しい思いをしました。結局,ジャーナルの査読付き論文の掲載には至りませんでした。
 コンピューターで計算した画像からホログラムを作成するためには,まず,例えば車のモデルや医用3次元画像などのデータをもとにして,その対象物を様々な方向から見たときの2次元画像をコンピューターグラフィックスなどを用いて計算します。そして,その2次元画像のホログラムを多数集積して1つのホログラムを作成します。それが,ホログラフィック・ステレオグラムと呼ばれているものです。そのとき,同じ分野の研究をしている MIT(マサチューセッツ工科大学)のメディアラボから研究室に来ていた博士課程の留学生に色々と質問をして,ホログラムによる立体像表示についての理解を深めることができました。そして,東工大とMITで研究しているどちらの方式でも,表示される立体像が歪んでしまうことを不満に思うようになりました。そこで,物体から発せられるすべての光線をホログラムに記録してしまえば,究極のホログラフィック・ステレオグラムを実現できるのではないかと考えたのです。今では全方向視差のライトフィールド・ディスプレイと呼ばれている方式です。
 先ほどの円筒型マルチプレックスホログラムでは,コンピューターで計算した画像を数百枚から2千枚程度用意して1枚のホログラムを作成するのに対して,この新しい光線を記録する方式では,数万枚以上の画像を1枚のホログラムに合成しなければなりません。ですから,液晶ディスプレイなどを用いた記録方式が必須でした。このような経緯で,ボタンを押せば3D映像のハードコピーを自動的に出力するようなホログラムプリンターの研究を始めました。それがきっかけで,研究を続けることになりました。

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山口 雅浩

東京工業大学 山口 雅浩

●山口 雅浩(やまぐち まさひろ)先生 ご経歴
1989年 東京工業大学総合理工学研究科物理情報工学専攻修士修了 1989年 同 像情報工学研究施設 助手 1994-1995年 アリゾナ大学医学部放射線科訪問研究員 1996年 東京工業大学 工学部附属像情報工学研究施設 助教授 2011年 同学術国際情報センター 教授 現在,東京工業大学 工学院 教授,情報通信系担当,副学院長 博士(工学)
●研究分野
光学,画像工学,ホログラフィー,分光イメージング,病理画像解析
●主な活動・受賞歴等
1999-2006年 通信・放送機構(2004年~(独)情報通信研究機構)赤坂ナチュラルビジョンリサーチセンター・サブリーダ兼務 2011-2017年 CIE(国際照明委員会)TC8-07 Multispectral Imaging 技術委員会主査,現在,日本光学会理事,Optical Review 編集委員長,CIE第8部会国内委員会委員長
2010年 Society for Imaging Science and Technology Charles E. Ives Journal Award(論文賞)受賞
2010年 平成22年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)受賞

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