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技術力とは,欲しいと言っている人がいたら,それを作ってあげることアストロデザイン株式会社 鈴木 茂昭

頼まれた仕事はできるかぎり断らずに引き受けることが基本

聞き手:これまで仕事をされていくなかで,ご苦労をされたようなエピソードとか,そういった時に,どうやって乗り越えて来たのか,お話しいただけますでしょうか。

鈴木:そういうのはあまりないです。もしかしたら「大変だった」「苦労だ」と思うことかもしれないけれど,自分の好きなことをやっていますから,大変だとは思わなかったです。私は経験のないことをやるのが大好きというのもあり,苦しさより楽しいと感じることが多かったということかもしれません。
 もちろん,すごく苦しいと思った時も少しはあります。それは,やはり納期が間に合わない時です。要するに,1人ないし数人でやっていると,もう物理的に手が足りないのです。できるのはわかっていても,絶対に間に合わないということが起きます。依頼をしてくる顧客は,みんな生産現場か新製品の開発などをやっている人たちで,納期に追われている立場なのです。
 弊社の玄関に,「VG-800」というプログラマブルビデオ信号発生器が置いてあります。あれは,1979年に日立製作所横浜工場向けに開発した製品です。当時,大型コンピューターの入出力端末がテレタイプのようなものからCRTを使ったコンピューター用ディスプレイへの転換が始まったころでした。そこで,ディスプレイの検査をする信号発生器を作ってほしいと依頼がありました。ただ,その納期がわずか2週間しかないと言われたのです。無茶な納期だとは思いましたが,日立製作所からの初仕事を何とかし遂げたいとの思いで,連日の徹夜仕事で仕上げて納入することができました。その結果,同社からの仕事を継続受注できるようになり,当社が一段階成長できるきっかけにもなりました。この継続した特注作業の中で,より汎用性の高いビデオ信号発生器を作って,さまざまな会社に紹介したい気持ちが強くなり,まず日立向けに開発したのが,VG-800です。より汎用性を高めるべく改良したVG-801が,コンピューターディスプレイのメーカー各社で試験用信号源として採用されたことが,当社の映像機器用計測器事業の口開けでした。
 どんなことでも,積極的に対応すれば相手もそのように反応してくれます。ポジティブな対応ができれば,物事は良い方向に流れていきます。依頼された仕事を1回でも断ったりすると,流れはそこで止まってしまいます。ですから,私は,仕事はできるかぎり断ってはいけないと思っています。頼まれたら基本は受けるのです。そうはいっても,さまざまな理由で受けられないことが起きます。その時には,その理由をきちんと説明することが大切です。依頼を受けて,きちんと,それなりの対応ができれば,顧客は引き続き仕事をくれます。ですから,まともな対応ができていれば,仕事というものは減るわけがないのです。
 そのような積極的な仕事ができるかどうかの分岐点は,仕事を楽しめているかどうかです。面白いと思っているかどうかです。面白くないことや興味のないことはやりたくないから,当然,やらない方向に行こうとします。

映像専門家ではなく, エレクトロニクスの専門家である

聞き手:8Kの開発を始められることになったのは,どういう流れからなのでしょうか。

鈴木:1980年代に開発しました先ほどのビデオ信号発生器シリーズのVG-807を,NHKさんでハイビジョン技術開発用の信号源として採用していただきました。それがきっかけで,当時の次世代テレビ技術として,NHKで開発していたハイビジョン放送に必要な関連機器の開発委託を受けるようになりました。
 そのハイビジョン技術開発も,放送のデジタル化でほぼ完了し,さらに,次世代のテレビ技術として,8Kの開発が始まりました。

聞き手:今,AI やIoTがかなり普及してきているかと思うのですが,8Kと組み合わせることで,どんな可能性が広がっていくのでしょうか。

鈴木:もちろん組み合わせれば, 多様な展開ができると思いますが,AI も8Kも新しい技術として,今やっと実用化されるようになってきたところです。
 特に8Kの本放送は昨年12月に開始されたばかりで,まだNHKの1チャンネルしかなく,放送としての認知度も今ひとつの状態です。放送では4K/8Kとセットで語られていて,一般の人たちにその区別もつきにくい状況が続いています。ところが,ここへきて8Kの放送以外への利用に興味をもつ個人ないし企業が急激に増えてきています。それはなぜかと言いますと,8Kは4Kの4倍,2Kの16倍の情報量を保有することに起因しているのです。例えば,70インチの大型テレビを買って,そこに,例えば映画をデジタル化して,2K,4K,8Kで映して比較したとします。同じ内容でデジタルの画素だけが違う映像です。細かく見れば,当然8Kが最も詳細まで表現でき,2Kが最もぼけて見えると思いますが,大多数の方は,おそらく映画の内容を楽しむのには,2Kで十分間に合うと感じると思います。
 一方では,例えばアフリカに野生のライオンを撮影に行った場合を考えてみましょう。その時,2K,4K,8Kの3種類のカメラで,同じ距離からライオンの行動を撮影したとします。同じアングルで固定して撮れば,2 ,4 ,8の順に,より精細に撮れるのです。一方,ライオンの映像を同じ鮮明度にとどめるなら,4Kでは2Kの4倍,8Kでは16倍のエリアの映像を写し取れることになります。この場合,8K映像にしか記録されていない情報が多量に存在するのです。この単純な事実から,8Kの絶対的存在価値が見えてきます。
 大切なのは,8Kは2Kの16倍の情報量をもっているということです。
 このことは,映画やテレビジョンのような,すでに演出手法や鑑賞法の確立された世界では,超高精細映像の差別化が案外難しいということでもあります。
 しかし,医療現場における手術映像,広域での監視映像,工業利用における画像認識,そのほか情報の絶対量や精度が重要な用途では,8Kは圧倒的な優位をもっているということになります。ただ,情報量が増えると,その中で必要な情報を抽出する難度が高くなることにもなります。そこに,AI の出る幕があるのではないでしょうか。

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鈴木 茂昭

鈴木 茂昭

●鈴木 茂昭(すずき しげあき)氏 ご経歴
1945年 愛媛県松山市生まれ 1967年 東京電機大学卒業 同年 リーダー電子株式会社入社 1972年 同社退社 同年 インターニックス株式会社入社 1977年 同社退社 同年 アストロデザイン株式会社創立 1979年 プログラマブルビデオ信号発生器を開発 1995年 世界初のHDTV用デジタルクロマキー装置を開発・販売。

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空と偏光

2020.03.25

空と偏光

東京工業大学 松谷 晃宏