【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

技術的知識と十分なソフトスキルがなければ,大きなインパクトを与えることはできないWilhelm Ulrich

自分の道は自分で決めることが,最後には自信につながる

聞き手:日本の光学産業に何かサゼスチョンはありますか?

Ulrich:これは非常に難しいですね。なぜでしょうか? 私はすでに言いましたが,人をサポートしたり導いたりするとき,質問することで,彼らが自分で答えや解を見つけるように手助けすることがよいと考えています。
 同じように,日本の産業は非常に成功していますが,自分で最善の解を見つけるべきだと思います。米国,中国,あるいはドイツの産業と同じ事をしても,日本にとって成功することはないでしょう。なぜなら,文化・伝統・社会基盤,さらに経済的・政治的条件が,日本とこれらの国とは異なるからです。どの国も,自分たちの特徴ある伝統・文化・学術そして専門技術に誇りを持っています。非常に重要で,非常に価値あるものです。ですから,ドイツの産業が米国や中国と同じように進むべきではなく,日本もまた同じように進むべきではありません。
 それは,私が光学設計者になってバレーボールを楽しんだことを,他人に真似をしなさいとは決して薦めないことと,同じかと思います。もしかしたら,音楽があなたに最も相応しいかもしれません。私は他の人に最も適したものが何かは分かりません。ただ確かに言えることは,他人にも他の文化にも他の発想にも心を開いて様々な視点から考えてください,ということでしょう。このことは人間にだけでなく,会社や産業にも言えることです。何があなたの周りに起きているかを観察し,現在の自分の状況と照合して,それを採用すべきかどうか,どのように取り込むべきかを決めることです。自分たちの文化に誇りを持ち,他人と差別化できることを大事にすることです。
 日本の産業について言えば,ミスの無い文化,欠陥の無い生産ということです。日本は世界一で,それを手放してはだめですが,しかし何が周りで起きているかにオープンでなければなりません。外部のアイディアに心を開き,どのようなやり方でそれが使えるか考え,異文化,異国からの人々と意見を交換し,それらを自分たちのチームのなかで総合することで多様な見識を得ることができると思います。
 人間でも産業でも,様々な見識が,変革過程が成功裏に進展するように助けてくれるでしょう。自分たちの差別化の強みは失わずに,新しい異なった考え方や意見を収集してそれに向き合い,徐々に取り入れていくのです。大抵は大きな変革は必要ありませんが,継続的に取り入れることになるでしょう。自分たちの得意なことを忘れたり,止めてはいけません。継続していかなければなりません。
 自分の行く道を決定してください。他の人から薦められた道ではなく正しい道であると,最後には確信できるでしょう。そして,個人個人は異なる強みと弱みを持っています。だから他人の真似は絶対してはいけません。自分に適したところだけを受け入れるのです。これらは,人,チーム,会社,産業の全てに当てはまると思います。

聞き手:教育と産業における自分たちの文化と制度において,ドイツ人には誇りがあるように感じられました。人の生き方についても,深く教わることが多くありました。ありがとうございました。
Wilhelm Ulrich

Wilhelm Ulrich(うぃるへるむ・うるりっひ)

ハンブルグ大学より応用科学のengineering degree(engineering degree from the University for Applied Science in Hamburg)を授与される。1980年 ツァイス光学設計の数学部門に入社し,様々な事業の最先端光学設計プロジェクトに従事(カメラ, 顕微鏡, レーザー走査顕微鏡, 医療顕微鏡,眼底カメラ,赤外光学系,干渉計,半導体露光用光学系)。1995~1997年 アーレン大学において,光エレクトロニクスの学生向けに光学設計の専門講義(associate lecturer)を行った。1997~2009年 カールツァイスSMT(SMT:Semiconductor Manufacturing Technology)AGにおいて最先端半導体露光装置の光学設計の長を務めた。2009年7月から現在 光学システム(レンズマウンティング基本設計を含む)設計の長を務めた。2014年~ オーバーコーヘンとイエナでのカールツァイス研究所のシステムエンジニアとアルゴリズムに関する責任者を務めている。2012~2014年 ミュンヘンのビジネスコーチング学院(Munich Academy for Business Coaching)でコーチング技術を学んだ。2013年~ ISO TC172“Optics and Photonics”のChairman。

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