【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

地道に続けていれば,道が開けてくる大阪大学/日本光学会 谷田 純

日本光学会は人のための組織,人のための学会を目指す

聞き手:谷田先生は日本光学会の会長に就任されました。これからの抱負や日本光学会の目指すところついてお聞かせください。

谷田:2014年の9月に日本光学会が発足しましたが,設立の経緯については黒田先生の「私の発言」(O plus E 2017年3月号 vol.39 No.3 通巻448号)に詳しく掲載されています。
 そこに至るまで結構大変でした。月3回ぐらいは土曜日ごとに東京で会議をしていました。その中で中堅の先生がたといろいろお話をする機会が増えて,お互いを知ることができて結束が固まったというか,関係が強化できたのは非常に大きいことだと思っています。
 ただ,発足当初の会員数は1,400名ほどでしたが,今は700名ほどになっています。これはなんとか盛り返していきたいと考えています。まずは,学会活動を継続発展させていくための運営基盤の安定化が,今期の私の仕事だと内外で言っております。
 学会安定化のために今4つのことを目標に掲げています。1つが学会員を増加させること。会員あっての学会ですので,そのために何ができるのか,さまざまな角度から探っていきたいと考えています。
 2つ目は国内と国外の関連学会と連携を強化していきたいと考えています。光はいろいろな分野が絡んでいるので,それに関連してそれぞれの学会がありますが,それらの学会と連携を強化していくということが大事だと感じています。それは,学会員のためになることですので,今まで以上にさらに実りのある形にしていきたいですね。
 3つ目は,学会の構成に関してですが,各年代層に渡る参加体制を作りたいと考えています。今の光学会は,私に非常に近い世代の人ともうちょっと下の人が中心になって動いています。ただ,それだけでは学会として非常に弱いところがあります。やはりシニアの先生がたや,若い層,さらには学生層と各年代層のかたがたに学会にメリットを感じて参加していただくことが必要です。学会として各世代が活発に交流できるような参加体制を構築することを考えています。
 それから,4つ目は学会内部のことになりますが,学会の運営システムを整備して効率化を図ります。協力いただく先生がたというのはそれぞれ本務がありますので,できるだけ手間をかけないような形で進めていきたいです。これは今のどこの学会でもそうだと思いますが,運営基盤が脆弱な日本光学会では急務であると考えています。組織が大きくなり過ぎると,組織のための組織ということがありますが,人のための組織,人のための学会として日本光学会を特徴付けていきたいです。
 また,学会の今後の活動としては,OPJ(Optics & Photonics Japan),光学シンポジウム,冬期講習会を3本柱として強化していきます。特に今年は,この3つの講演会・講習会に共通したテーマを設けることを試みています。光学シンポジウムは機械学習と光,冬期講習会はAI時代の最先端センシングという具合です。OPJは,会自体が大きく一色に染めるのは難しいので,連動した企画を用意します。
 他学会との連携では,OPJにおいて,今年もOSAとOSJのジョイントシンポジウムを開催します。それから,学会誌の改革も進めています。「光学」は今年の4月から中身の充実を図っています。ぜひご覧いただきたいですね。
 あと,若い人が主体的に参加できるイベントも検討しています。従来からのものとしてはコニカミノルタ光みらい奨励金があります。ただ,残念なことに応募が非常に少ないのでぜひ多くの人に応募していただきたいと考えています(編集注:2017年度の募集は終了しました。)。

いろいろとつながるのが光の強み

聞き手:最後に光学分野の若手技術者や学生などに向けて光学分野の面白さやメッセージをお願いします。

谷田:まず,光は目に見えるということですね。目に見えるということはすごく重要なことだと思います。人間は目に見えないものはなかなか納得もしないし興味もわきません。せっかくいろんな結果を出しても単なる数字やグラフだけだとやっぱり面白くありません。それがきちんとイメージとして出てくるということは大事なことであると思います。これがまず,1つ目の光学の面白いところだと思います。
 私の学生時代は,データは何を使ってもよかった。そうなると,自分の面白そうな,興味のあるもの,例えば,趣味の写真とかを使ってもいいわけです。学会に出す,出さないは別としてもそういうことができるというのが光の面白いところだと感じています。
 それから,2つ目としては,光は至る所に存在していることでしょう。自然の太陽光は多くの生物にとって重要であり,そのため応用範囲が非常に広いですし,特殊な光も光源から作り出すことができます。ですから,とにかく光を研究していればいろいろな所につながっていけるということで,それは光の強みだと思います。
 あるいは,逆に自然現象から光に入ってくる人も結構います。例えば,天体から光学に興味をもった方が結構おられると思います。最近では画像から来る学生が多くて,私の研究室ではコンピュテーショナルイメージングをやっているため,「画像処理とか画像関係のことをやりたい」と言って来る学生も結構多いです。やはりここでも,いろいろなものとつながるのが光の強みだと思います。
 それから,少し学術的ではないのですが,感性に訴えるというのも光の強みです。絵を見て画家のメッセージを感じるとか,あるいは,きれいな風景を見て感動するということがあると思います。科学的には,脳に入力される感覚信号と精神がどのようにつながるのかという難しい問題です。まだまだ未解決なものですが,光はそういう高次の精神活動とか情報処理とのつながりを解くツールになるのではないかと思っています。その意味では,人間光学といいますか,人間を含めた形の光分野の研究テーマが広がる可能性もあるのではないでしょうか。
 光の現象は,何らかの情報や信号に対する処理であると考えることができ,これは一種の情報処理だといえます。このような考え方は,ナチュラルコンピューティングと呼ばれており,自然現象を使ってコンピュテーションを実現するという研究分野です。光というのは,まさに一番身近にあってしかも目に見えるということでナチュラルコンピューティングの一番扱いやすい例の1つです。そういう観点で,多くの光現象を情報処理と考えてみると身の周りのものがいろいろと面白く見えますし, それをめざしたのが光コンピューティングの考え方です。
 実際には,コンピューターを超えるのは大変ですが,コンピューターとの連携によりその能力を飛躍的に拡張することは可能です。昔の光コンピューターというのは光技術だけでコンピューターを作ろうというような話でした。今は量子光コンピューターに関する研究が進められていますが,光だけで完結したシステムの開発はチャレンジングな課題です。ですが,現在は情報機器が発達していろいろなものを使えるようになっています。それらと光の演算技術をうまく組み合わせれば,何か新しい情報システムができるはずです。コンピュテーショナルイメージングというのは,まさにそういう分野でして,後段はコンピューターですが,画像の取り込み部にいろいろな光演算処理を利用することで従来では撮れないようなイメージ情報を取得することができます。
 技術には,歴史を繰り返すという傾向があります。3Dテレビもそうですし,直近ではディープラーニングをきっかけにした人工知能が当てはまります。これらは過去に何回かブームがありました。技術はらせん状に発展していくのです。ブーム後の光コンピューティングは,まさにらせんの裏側にありました。そのうちまた表側に戻って来ると予想していましたが,コンピュテーショナルイメージングでの活用を考えると,今が光コンピューティングのチャンスだと思っています。自分自身の研究はやはり光コンピューティングをルーツとしており,やり残した仕事を何とかものにしたいと願っています。
 これまでいろいろな方に大変お世話になり,ご恩をいただいたわけですが,今後はそれを還元していかなければならないと思っています。それを,光コンピューティングの分野でできるなら一番の幸せだと考えています。光コンピューティングや情報フォトニクスという分野の面白さを発信することで,1人でも多くの方にその魅力を知ってもらい,この分野が今後も発展していくことに貢献したいです。
谷田 純

谷田 純(たにだ・じゅん)

1986年 大阪大学 工学博士 1986年 日本学術振興会 特別研究員 1986年 大阪大学 工学部 助手 1993年 大阪大学 工学部 講師 1996年 大阪大学 工学部 助教授 1998年 大阪大学 工学部研究科助教授 2002年 大阪大学大学院 情報科学研究科 教授 2014年 一般社団法人 日本光学会 副会長 2017年 一般社団法人 日本光学会 会長
●研究分野
光コンピューティング,情報フォトニクス,コンピュテーショナルイメージング,フォトニックDNAナノ情報技術
● 主な活動・受賞歴等
1985年 応用物理学会光学論文賞
2012年 第10回光都ビジネスコンペ in 姫路 優秀賞
2015年 OSA Fellow Member
2015年 応用物理学会フェロー表彰

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