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地道に続けていれば,道が開けてくる大阪大学/日本光学会 谷田 純

大きな転機になった国際会議

谷田:光コンピューティングや情報フォトニクスの活性化にはいろいろな苦労をしましたが,その中で1つ大きな転機になったのが,2008年に淡路島で開催したインフォメーションフォトニクス(IP2008)という国際会議です。
 この会議は,何年も前から構想を練って臨んだ,研究グループ主体の会議でした。それまで光コンピューター分野ではOCミーティングがあったのですが,間が空いてしまったのと,OCミーティングの運営に携わった経験を持つ先生が他におられなかったため,私が中心となって,光コンピューティング研究グループを主体に開催しました。  インフォメーションフォトニクスは,内容,運営,イベントなどにおいて,多くの参加者に満足していただき成功を収めました。しかし,このときの何よりの収穫は,手作りに近い形で国際会議を運営していただいた先生がたです。
 早崎先生や,宇都宮大学の山本先生,和歌山大学の野村先生などたくさんの先生がたが関わっていましたが,国際会議というのはこういうふうにやればいいのだという経験を得て,皆さんから自信を持つきっかけになったと言っていただけました。現在,先生がたは国際的に目覚ましい活躍をされていますが,そのきっかけになったとすればこれほどうれしいことはありません。大変苦労しましたが,非常に良かったと思っています。
 このような経験から言えることですが,苦しみながらもずっと続けていれば,きっと何かにつながっていきます。現在でも日本光学会の研究グループとして,情報フォトニクスとデジタルフォトニクスの活動は続いており,情報科学の潮流とともに順調に発展していると感じています。
 最近では研究費獲得に苦労しています。私の学生時代は,光コンピュータ研究会がそうなのですが,みんなで集まって研究をするスタイルの科研プロジェクトが進んでいました。例えば,重点領域の「超高速・超並列光エレクトロニクス」が私の学生時代にありましたが,いろいろな先生がたと知り合いになれました。その後,JSTプロジェクトの大阪府地域結集型共同研究事業「テラ光情報基盤技術開発」で一岡先生が副研究統括を務められ,その中でもいろいろな経験をさせていただきました。そういうことも踏まえて,光コンピュータ研究グループを中心としたプロジェクトを立ち上げようと努力したのですが,最近ではこのようなプロジェクト形態はなかなか評価されません。融合研究を推進するため,より幅広い分野による研究チームが求められ,同一分野のグループには予算が出ない状況になっています。もちろん,異分野との融合は重要ですが,近い研究分野の研究者が集まってこそ新たな研究の芽が生まれることがあり,また次を担う人が育つことは,これまでの経験からも明らかです。この点については,なんらかの形で実現したいと考えています。
 その他,大学自体も教育に対してますます重きを置くようになってきています。そういう意味で研究だけやっていればよいという時代とは変わっています。また,昨今ではコンプライアンスといったこともあり,しなければいけない手続きや仕事が増えてきています。そういう環境下で国際的に競争していくのは,やはり難しいなと感じています。今でも答えはないのですが,これも大きな壁のように感じています。

研究室立上げの苦労

谷田:あと,少し話が変わるのですが,私自身は情報学研究科に属しています。もともと光コンピューターの研究をしていて情報分野には興味があり,2002年に大阪大学に情報学研究科ができたときに研究室を任せていただきました。しかし研究室立ち上げ当初はなかなか学生が集まりませんでした。学生に対して,研究室で何をやっているかをうまく周知できず,せっかく学部で研究室に配属されても,大学院はよその大学に行くというようなことがあり,これは結構こたえました。
 一岡研究室の時代は多数の学生が集まっており,放っておいてもみんな何でも勝手にやるし,テーマも自分たちで考えて,すべてがうまく動いていました。それが新しい情報科学研究科では,部局も変わったとことでなかなかうまくいかず,一時期研究室のアクティビティは落ちました。
 ですが,小倉裕介先生や堀崎遼一先生,西村隆宏先生,現在静岡大学の香川景一郎先生らが協力して学生の指導に当たっていただいたおかげで,たくさんの学生を送り出すことができました。研究室としての責任を果たすこともでき,最近ようやく形になってきたかなというような気がしています。
 テーマ自体はそれほど大きく変わっていないので,やはり信念を持って続けてきた結果だと思っています。また,それができる環境にあるというのは幸せなことだと思います。
 情報科学研究科の中では,純粋な情報通信分野が大多数です。ほとんどの研究室は,コンピューターやネットワーク,理論を主に扱っています。学内の共同研究プロジェクトに参加して感じたのですが,他のグループとは研究スタイルや文化の違いがかなりあります。現在では,情報系の組織に属する光研究者も多く,このような違和感は多分われわれに限ったことではないと思います。
 ただ現在では,例えばIoTであるとか,それを使ったサイバーフィジカルシステムが盛り上がりを見せています。そのような研究課題ではわれわれの文化が必要になっていると感じています。そういう意味で,ちょっといい風向きになったのかなと思います。よく一岡先生が「うちの研究室のやっていることは早過ぎる」ということを言われていましたが,まさにそういうことかなと思っています。地道に続けていれば,時代が追いついてくるというか,道が開けてくるのだということを身をもって体験させてもらっていると感じています。

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谷田 純

谷田 純(たにだ・じゅん)

1986年 大阪大学 工学博士 1986年 日本学術振興会 特別研究員 1986年 大阪大学 工学部 助手 1993年 大阪大学 工学部 講師 1996年 大阪大学 工学部 助教授 1998年 大阪大学 工学部研究科助教授 2002年 大阪大学大学院 情報科学研究科 教授 2014年 一般社団法人 日本光学会 副会長 2017年 一般社団法人 日本光学会 会長
●研究分野
光コンピューティング,情報フォトニクス,コンピュテーショナルイメージング,フォトニックDNAナノ情報技術
● 主な活動・受賞歴等
1985年 応用物理学会光学論文賞
2012年 第10回光都ビジネスコンペ in 姫路 優秀賞
2015年 OSA Fellow Member
2015年 応用物理学会フェロー表彰

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