【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

異なる分野の連携が難しいのは目指すものが違うから東海大学 山口 滋

レーザーを軸にしながら分野を別のところへ

聞き手:工学分野に進まれたきっかけをお聞かせください。

山口:私はもともと車が大好きでした。運転も大好きだし,メカをいじるのも大好きでした。そこでなぜ,機械系ではなく電気を選んだかというと,臆病者ゆえでしょうか。
 親を始め,幾人もの先達に「仕事というのはもともとつまらないものだ」言われていたこともあり,好きなものを本当に職業にしてしまうと,ついにやめたくなったときにどうするのかという怖さがあったからなのです。
 昔から学生には「いつも信念を持て」とか言っていますから,このような経緯をお話しするのはとても恥ずかしい限りです。
 ただ,あえて仕事にするには機械より電気のほうがいいと思って選んだところ,たまたまそこに面白いネットワークがつながり,先生たちのお誘いがあって,レーザーをやっている研究室に入りました。当時の電気・電子では,コンピューターや電子回路が主流でした。たまたま私がいた慶應義塾大学では,電気・電子の藤岡知夫先生がレーザーを研究されていて,そこにお世話になったのです。
 そうして電気・電子を学んだのですが,結局就職先に選んだのは機械の会社である石川島播磨重工,いまのIHIでした。ただ,採用分野は電気制御系のグループとして配属されました。そこは航空宇宙の分野といいながらもレーザーを開発しており,結果的に機械はつくらずにレーザーをつくることになりました。当時は流体の機械からレーザーを出すというのが当たり前の時代で,かつ私の仕事は防衛の手段としてレーザーでミサイルを壊そうというものでした。いわゆる冷戦下でアメリカとソ連が対峙しており,SDI(Strategic Defense Initiative)構想が出てきて,日本でも高出力のレーザーを本格的にやるべきではないかという気運が高まっていたころでした。
 電気・電子を使って,レーザーを励起するということは大学時代にやっていましたが,会社へ入ったおかげで,流体の機械が私の勉強の主眼になりました。いろいろなことを学んだという点で会社には大変感謝していますが,今ではそういうレーザーをあまり目にすることはありません。要はロケットのモーターからレーザーを出そうというもので,ロケットのモーターが産み出す燃焼ガスのエネルギーは膨大ですから,効率がコンマ何%未満でも,100キロワットぐらいすぐ出すことができるのです。ロケットのモーターを1個持ってくると,相当強力なレーザーがつくれることは昔から分かっていました。ただ,いまではもっと安全な形で出力の高いレーザーができますので,これをやっている人というのはほとんどいません。
 その後は計測の機械を作ることが多かったですね。レーザーを軸にしながら,次々にちょっと分野を別のところへ移して行った感じでしょうか。ただレーザーは必ず私の手元にありました。でも,今ではレーザーが入ってきていない分野を探すことが難しいぐらいレーザーはあちこちに入ってきているのが現状ですね。

臨床には理工系のスピードでは追いつけない

聞き手:山口先生と「創造科学技術研究機構」と「産官学連携センター」についてお聞かせください。

山口:レーザーの研究をする中で,企業との連携が増えて行きました。今,世の中では,医学と理工学が非常に強く連携していくことが当たり前になっています。東海大学では比較的早くから医療分野,その中でも形成外科に,レーザーをはじめいろいろな手法を取り入れてきました。私もファイバーレーザーのはしりのところを提供していました。
 ただ,当時の東海大学では,理工分野で医学に関係することを大々的にしているグループがありませんでした。そこでレーザーだけではなく,もっと広げて臨床の基礎をやっている人たちをもっと工学系と連携させようということになりました。
 臨床そのものではなく,臨床の基礎にしたのには,理工系の研究のスピードの違いがあります。臨床そのものには,なかなか理工系のスピードでは追いつきません。例えば肝炎の治療で,ある治療法が主流だと思っていたら,1年もたたずに別の治療方法がベストな選択になっていたという具合なのです。これは,臨床医学の研究がビジネスモデルとして患者さんを救うという強いミッションの上に成り立っているのに対して,理工学系は学生を育てるというのを担っているので仕方のない部分だと思います。ただ,学生は育つのですが,スピードが育たないのが問題ですね。
 そこで,もっとうまく連携が取れるように,学内に基礎系も含めて,理工学と医学の基礎というのを,もっと大々的に実施しようとして発足したのが「創造科学技術研究機構」です。創造科学技術研究機構では,先端分野における国際的研究を行う能力,自らをロールモデルとして後進の研究者を育成できるメンターに必要な力量を持った人材を養成するための学内特区として設置されました。海外留学を含む理想的な研究環境の中で国際的研究能力を向上させ,教育・研究の場を通じて次世代の研究者を指導するメンター能力を養成できるよう支援します。
 それをさらに広げて,海洋学や人文・社会学系までいろんな意味で研究を教育にフィードバックしながら,さらに研究を活性化するということができるような人材を育てようというのが今の私の仕事になります。
 また,東海大学では,積極的な産官学連携に取り組んでおり,研究担当副学長とともに私が部長を務める「研究推進部」を中心として,組織的な産官学連携に力を注いでいます。

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山口 滋

山口 滋(やまぐち・しげる)

1981年 慶應義塾大学工学部卒業 1983年 慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程電気工学専攻修了 1983年 石川島播磨重工業㈱入社 航空宇宙事業本部光プロジェクト部にて高出力炭酸ガスレーザーの研究開発 1989年 米国ライス大学量子工学研究所交換研究員,高出力エキシマレーザーの研究 1991年 石川島播磨重工業㈱に復帰 レーザー精密加工装置の開発,レーザー計測機器の開発に従事(電力,製鉄会社等に製品納入) 1993年 博士(工学)(慶應義塾大学)取得 1997年4月 東海大学理学部物理学科助教授 レーザー共振器の理論解析,レーザー計測・レーザー診断・微量物質検出の研究に従事 2003年4月 東海大学理学部物理学科教授 2005年4月 同大学院理学研究科物理学専攻主任教授 2006年4月 同理学部物理学科主任教授 2011年4月 同大学院総合理工学研究科研究科長 2015年4月 同研究推進部部長 及び産官学連携センター所長兼務
●研究分野
物理学一般,物理計測・光学,分離・精製・検出法

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