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何が本当のエコなのかを考えなければいけない東京工業大学大学院 理工学研究科 機械物理工学専攻教授 矢部 孝

行き当たりばったりが収束していく人生の面白さ

聞き手:工学分野に進まれたきっかけと,そこからマグネシウム電池や太陽光励起レーザー,淡水化装置の研究に進まれたきっかけをお教えください。

矢部:宇宙や飛行機は好きでしたが,特に工学分野には興味があったわけではないんです。音楽が好きでしたので,芸大は難しいかもしれないけど音楽の大学に行きたい,あるいは航空学校に進んでパイロットになりたいと思っていました。たまたま田舎の学校で成績が良かったので,周りが期待して「いい大学に行ってくれ」と言われたんです。ただ学生運動のあおりでその年は東京大学の入試がありませんでした。そこで東工大に進んだのです。私が入学した当時は,工学・理学に分かれていませんでした。工学系を選んだのは,就職にも有利ではないかと考えたからです。ところがオイルショックがあり,就職したくても就職できないような状況になりました。
 オイルショックを経験したことで「エネルギーは大事だから,エネルギーをやろう」と思っていた時に「核融合が将来のエネルギーを決める」と当時の指導教官に言われたんです。その先生は京都大学の物理出身で,大阪大学レーザー研を作られた山中千代衛先生と親しかったのです。
remark54_2 これはすごく不思議な縁だと思っていますが,僕が4年生のその年(1972年)に,それまで秘密だったアメリカのレーザー核融合情報が公開になりました。レーザー核融合の原理は水爆と同じで,レーザー核融合の研究が解禁になったのが1972年なのです。そしてその年に山中先生による国際会議が日本で開かれ,なぜか私がそこに参加し「レーザー核融合ってすごいんだな」と感じて研究を始めるきっかけになりました。
 ところが当時研究室では誰も核融合はやっていませんでした。私が最初です。とにかく誰も指導してくれる人はいませんから独学でした。院には進まず助手として研究し,ある時学会で山中先生に直談判をして阪大に移りました。そうして38歳の時に群馬大で教授になり,その後いろいろなところからお誘いがあったのですが,いろいろ迷っているうちに,東工大からお話を頂きました。
 東工大に移って,2002年にレーザーで飛行機を飛ばすというプロジェクトを行いました。「Nature」で取り上げられたりニューヨークタイムズにも結構大きく取り上げられました。そこに航空宇宙局(NASA) マーシャル宇宙飛行センターの所長のコメントもありまして「これはロケットを飛ばすのに使える」と話が載っています。これが日本なら社交辞令で終わりですが,アメリカは本気なんです。ロケットをレーザーで飛ばすんだと。レーザーで飛ばす方法も3つぐらい候補があり,そのうちの1つがわれわれのやり方で今も研究が行われています。
 この研究ではレーザーをいかに作るかが重要でした。太陽光からレーザーを作るのが一番いいだろうという結論に達して太陽光励起レーザーを始めました。ただ「太陽光でレーザーを作る」といくら言っても「そんな夢のような話にお金を出すか」と国は予算を全然くれません。そこで「このレーザーをエネルギー問題に使う」という言い方ならば,予算が獲得できるのではないかというのがきっかけです。2004年ぐらいに「エネルギー問題に使える」という話をし始めて,少しずつ研究の軸足が移って今はエネルギーがメインの研究テーマになっています。
 淡水化装置はそれに付随しているだけなのです。太陽光励起レーザーでエネルギーを取り出そうとした時に,十数年前に行っていたプロジェクトからマグネシウムの製錬を組み合わせました。マグネシウムをどこから調達するかということを考えた時に,海水中には大量にありますからそこから採取しようと言うことで淡水化装置をやり始めました。
 何でも行き当たりばったりでやっていましたが,そうこうしているうちにだんだん1つにまとまってきまして,サイクルが出来上がってきたのが2005年ごろです。最初からこのサイクルを考えていたわけではなく,やっているうちに出来上がったのです。
 レーザー核融合をやっていた時から,私の得意なものといったらレーザーしかありませんでした。そうすると,何としてでもレーザーを使いたいという思いもあり,それが良かったんでしょう。  人生は面白いと思います。行き当たりばったりでやっていてもいつの間にか収束していきました。今でも不思議に感じていて,神様が「こういう世界を作るために,私を動かしているのでは」と思っています。 <次ページへ続く>
矢部 孝(やべ・たかし)

矢部 孝(やべ・たかし)

1950年宮崎県生まれ 1973年東京工業大学工学部機械物理工学科卒業 1973年東京工業大学工学部機械物理工学科助手 1981年大阪大学レーザー核融合研究センター講師 1985年大阪大学レーザー核融合研究センター助教授 1986年西独カールスルーエ原子核研究所客員教授 1988年群馬大学工学部電気電子工学科教授 1995年 東京工業大学大学院 総合理工学研究科 創造エネルギー専攻教授 現在 東京工業大学大学院理工学研究科機械物理工学専攻教授
●研究分野:応用光学,エネルギー
●主な活動・受賞歴等
1999年 英国王立研究所200周年記念講演 2004年日本機械学会・計算力学部門・功績賞,流体科学賞 2006年 国際数値流体力学会名誉フェロー 2007年APACM Award for Computational Mechanics(APACM 計算工学アジア太平洋連合) 2010年IACM Award for Computationnal Mechanics(IACM国際計算工学連合)

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